王子に何があったのかと問われて、ヴィムは不貞腐れたままミレイユがいなくなったことを告げた。
王子は考えるように腕組みをしていたが、ぴくりとも表情を変えなかった。

「おまえ、ミレイユに何か言っただろ」

ヴィムはぎろりと王子を睨みつける。
王子は怯みもせずに、ことりと首を傾げた。

「さてね。君が神殿にいてくれたらなぁという話はしたけど」

「てめぇ!」

ベッドから出て殴りかかろうとしたヴィムに、さっと動いた周囲の護衛が腰の剣に手を掛けて足を踏み出す。

「こらこら。神様の前で無粋な行為は止しなさい」

まったく動じる様子もなく、王子が剣を仕舞わせた。
ヴィムは拳を握りしめたまま、ぎりっと唇を噛む。

「失敗だった。一緒に神殿に住んでくれという意味だったんだが、姿を消すとは思わなかった」

「失敗だったで済むと思ってんのか!」

「悪かった。すぐに捜索させよう」

反省しているのかいないかのか、ひとつ溜息をつくと、王子はすぐに側近を呼んでミレイユ捜索の手配をする。
しかし、それくらいでヴィムの怒りがおさまるはずもなかった。

「ミレイユに何かあったら殺してやる」

吐き捨てると、どさりとベッドに倒れ込む。
少し立ち上がっただけで足が痛みで震えていた。

「神の主がどうにかなるわけもない。ヴィム、おまえはとにかく少し休め」

他人事のように言ってのけるその言葉に、ヴィムの瞳に涙の膜が張った。
どうしようもなく腹立たしくて、そのくせ少し慰められてしまったことに怒りが募る。

神様、俺に宿ってるなら責任持ってミレイユを守れよ。
できなきゃてめぇもぶっ殺してやる。
というか俺が死ぬ。
だから、助けて、たのむから。

枕に突っ伏したヴィムの頭に王子の手がのせられる。
払いのけたかったのに体が動かなくて、ヴィムは黙って撫でられるがままにしておいた。

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