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荷物を持って、扉の前で立ち止まって部屋を見渡す。
家具しか残っていないがらんとした部屋。
七年住んだ記憶が蘇ってきて胸がつまる。
突然引き取られて戸惑ったこと。
親を亡くした寂しさで泣いたこと。
レイモンにかまってもらって喜んだこと。
ヴィムとじゃれあって笑ったこと。
ひとつひとつ思い出を噛み締めて、心の中でさよならを言う。
ヴィムはまだ戻ってこない。
拗ねているのだろうか。
出ていくと言ったせいで、嫌われたのだろうか。
彼も寂しがってくれているのだろうか。
この部屋ではいつも二人だった。
ヴィムが一緒だったから、今までやってこれた。
「……ヴィム」
会いたい。
最後にごめんねと言いたい。
ここに連れてきてくれてありがとうと言いたい。
一緒にいてくれて幸せだったよ、と。
「ミレイユ、そろそろ」
使用人の仲間から促されるように声が掛かって、ミレイユは部屋を出る。
ヴィムは姿を現さない。
ぱたんとドアを閉めて、ミレイユは部屋を後にした。
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