優しく頭を撫でてくれる、小さくて柔らかな手が好きだった。
どこか寂しげに俯く背中が、俺だけに見せてくれる穏やかな笑みが大好きだった。

ヴィム、と自分を探す声が聞こえる。
レイモンの部屋でその声を聞きながら、なんとか起き上がろうとする。
長椅子に横たえた体がうまく動かない。
名を呼ぶ主のもとへ行きたいのに、足がもつれて倒れてしまう。

この部屋の主は、現在婚約者と逢瀬の最中だ。
美しい庭園で、甘い時間を過ごしている。

ヴィムは視線だけを動かして、窓の外を睨む。
ミレイユはきっと、俺を探しに庭に出た。
そこで二人の姿を目にすることになるはずだ。

そのときのミレイユの心情を慮って、ヴィムは腹立たしく唇を噛む。

彼女は泣くだろうか。
愛しい人を想って。
愛しい人の、幸せを祈れぬ自分を嘆いて。

ひとりにしたくない、と思う。
彼女はいつだってひとりだ。
悲しさや寂しさと一緒に、涙も堪えて俯いている。

長椅子に這い戻って、倒れ込む。
もう少し。
彼女の傍にいられるようになるまで、もう少し。

ヴィムは上がった息を整える。
ひとりになんか絶対させない。
金色の毛がばらりと落ちて、腕に伏せた彼の顔を覆い隠した。

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