ラプンツェルの誓願


髪に願掛け、なんて、いつどうやって知ったのだろう。
始めたのはよく覚えてる。
小学三年生、あいつと同じクラスになったときから。

「なんでそんなに髪伸ばしてんの」

「好きな人と両思いになれるように、願掛けしてるの」

「なにそれ。俺、短い髪が好き」

そんな無神経な男を、私は五年も好きでいる。

「ゆっこみたいなショートが可愛い。井沢も切れよ」

「うるさいな。関係ないでしょ」

「見てて暑苦しい」

腰まである私の真っ黒な髪を見て、安田は溜息をつく。
彼はずっと私の長い髪が気にくわないらしい。可愛いなんて、私には絶対言わない。

私は頬をふくらませ、彼の言うゆっこちゃんに目を向ける。
彼女とは今年初めて同じクラスになった。
安田とも一年ぶりに同じクラスで喜んでいたのに、彼はゆっこちゃんとあっというまに仲良くなった。
明るくて、活発で、安田と気が合うのがよくわかる。
みんな、二人が付き合ってるんだって噂してる。

「……切っちゃおうかな」

全然願いも叶わないし。

二人が教室で楽しそうに話している。
冗談を言い合って、安田がゆっこちゃんの頭を軽くはたく。ゆっこちゃんが笑い、短い髪が揺れる。
泣きそうになった顔を、長く伸ばした髪で隠した。

どうか、この願いが髪と一緒に切り落とされてしまいますように。

「えっ、なに、え、髪は」

翌日、潔くベリーショートになった私の髪を見て、安田はアホみたいに驚いた顔をした。

「切れって言ってたじゃん、なに驚いてんの」

「や、そうだけど。おまえ願掛けしてるんじゃなかったの」

「……失恋した」

私は安田から目を逸らす。
言わすなよ、こんなこと。
泣きそうになった顔を見られたくなかったのに、安田は口を閉ざし、こちらを向いて私の前の席に腰掛けた。

「だったら」

いつになく真面目な顔をして、安田が口を開く。

「だったら、今度は俺のこと好きになってよ」

思いがけない台詞に、頭の中が真っ白になった。

「おまえが好きなんだよ、五年も待ったんだぞ!」

私は顔を上げる。
頬を赤くした安田が、私を睨むように見ている。
その言葉に、どうしようもなく泣きたくなって、どうしようもなく笑えてきた。

「願い、叶った」

短い髪に指を絡ませて、泣き笑いみたいな顔で言う。
安田はぽかんと口を開ける。

そしてその意味を理解すると、真っ赤になった顔を隠すように机に突っ伏して、長い方が似合う、なんて馬鹿な言葉をくれた。

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