ミントチョコの葛藤


学校の近くにアイスクリーム屋がある。
夏休み明け、まだ暑いこの時期は、うちの生徒に大人気だ。

「たっだいまー」

放課後、教室で友達を待っている私の耳が彼の声をとらえる。この耳は、彼のことになると敏感に反応するのだ。

「アイス買ってきたのー?」

「いいなー、うまそう」

「いいだろー?」

彼は人懐っこくて、クラスの中でも目立つタイプだ。
声をかけられて、アイスを見せびらかせて自慢げに笑う。さっき友達と出ていったと思ったら、アイスを買いに行っていたらしい。

下敷きで顔を扇ぎながら、友達とアイスを食べる彼を見つめる。この目も彼に関することになると敏感になるのだ。

ぱちりと目が合って、びっくりして慌てて逸らそうとする。だが、予想外に彼のほうから声をかけてきた。

「暑そうだねー。コレ食べる?」

「えっ!」

さらに思いがけない提案に、私は目を丸くする。そんな私におかまいなく、彼は私の席に近づいてきてアイスを差し出した。

「どうぞ」

「で、でもっ」

彼がにこっと笑い、私の頬にさっと朱がのぼる。
この暑いのに、さらに体温を上げてどうするんだ私!

「いいよー、別に一口くらいで金取ったりしないし」

「え、や、そんな……」

彼が冗談を言って気をきかせてくれるが、私はテンパってそれどころじゃない。

問題は二つ。

これを食べたら間接キスになってしまう。

そしてもうひとつ、私はミントチョコが嫌いだ!

ミントのスースーする感じが、歯磨き粉を食べてるみたいでどうしても好きになれない。
だけど、こんなチャンスはもう二度と訪れない気がする。

「ほらっ、早く食べないと溶ける!」

彼の言葉にはっと現実に引き戻される。
言われたとおり、目の前のアイスは溶けてコーンに流れ出しかけていた。

大体、私が彼の申し出を断れるわけがないのだ。

私は彼をとる。
こんな茶色のぶつぶつと緑の物体に負けたりしない!

「い、いただきますっ」

私はぱくっとアイスにかぶりついた。
冷たい感触が口の中に広がる。

「うまい?」

彼に顔を覗き込まれ、私は顔を真っ赤にしてこくこくと頷く。
ヤバイ、私、間接キ、キキ……!

なんて興奮している中でもミントの力は素晴らしく発揮され、私は歪みそうになる表情を必死で取り繕う。

「あ、ありがとう!」

「あはは、何も泣かなくても。面白いね、キミ」

涙目になっているのはバレバレだったらしく、彼がおかしそうに笑う。

ああ、ミントチョコなんて嫌いだ。
大っ嫌いだ。

だけど、今日からはきっと好きになる。
これからは、この鮮やかな緑を見るたびに彼の笑顔を思い出すことになるはずだ。

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