小説 | ナノ

▼ 水月
オロチ丸に言われるままにはだけた着物を着ている所も、憂いを含んであまり変わらない表情も、白すぎるうなじも、その奥に秘めた一途な想いも硬すぎる頭も、強いと思いこんでいる傲慢な幼さも、全部引っくるめて君が好きだよ。

いずれお前をここから出してやる。

オロチ丸に着いて回る君が偉そうにそう言い残した時から君がどんな奴か気になってたんだ。
部下になる気はさらさらなかったけど。

このまま男の二人旅の方が僕としては良かったんだけどなぁ。
あとの二人も悪い奴じゃなかったみたいだから別にいいけどさ。

茶屋に入って時々ヨーグルト驕って貰ったり、ちょっと脅してからかってヨーグルト驕って貰ったり、相槌すら碌に打たない無愛想なサスケと楽しく喋ったり。

君がボクのお喋りを鬱陶しがっていない事は最近よく分かるんだ。
我が侭な君は嫌ならすぐ睨むか立ち去るかするから、黙って聞いてくれているだけでちゃんと分かる。
忍者だからちょっと心も読めるようになったかな。

君は相槌を打たなくてもいい僕といるのが嫌いじゃないし、ボクはそんなサスケといるのが嫌いじゃない。
ボク達馬が合ってるんじゃないかな。

反応の少ないサスケに色々モーションをかけてその反応のなさを見る日々は培養液の中と比べたら楽しくって仕方ない。

そして色んな地を廻って、夜は宿屋で二人分布団を敷いて寝て、そうやって少しずつ君の事が分かっていくんだ。
君の目的も、内に秘めたものも。
全てを成し遂げた君がどんな顔をしているのかも見てみたい。



君は出会った時からやたらと海が似合うね。

ザザン‥。

また波の打ち寄せる岩場に立って遠くを眺めているサスケを見つけて、隣の岩に腰掛ける。

「傷はもういいの?」

ハタハタと白い着物がなびいて中の包帯が見え隠れする。
海の向こうに何見てんのかなぁ。

「海見るの好きだねサスケ」

返事なんて期待しない。
穏やかな時間に潮風が舞う。

「重吾は?」

やっと口をきいたサスケは相変わらず独り言みたいだったけれど、返事を期待しているようなので親切に答えを返す。

「さっき帰ったよ。小鳥と喋ってたから何か手がかりを得たみたい」

君の目的とか動機とか、敢えて深くは追及しない。
君がそれを望んでないから。
干渉し合わない関係に、少しでも安らぎを感じてくれてたらいい。
語り過ぎない所も君の魅力だから。

強いのに脆い所も、一人で抱えていた物を少し分けてくれた所も。君の秘めた過去も未来も。

「ねぇサスケ、僕は君の事が好きだよ」

相変わらず返事が貰えないのが分かってそう呟く。
ちょっとした告白にも君は無関心だろうけど。
チラリと見遣るとサスケは珍しく目だけこちらによこしていた。
すぐに逸らされたけれど少し感心を持ってくれたのが分かって口角が上がる。


君が好きだよ。
香燐も重吾も。

サスケが見つめる海の向こう、何があるかまだ分からないけど、ただ今の時間に少し幸せを感じてくれていたらいい。

北アジトからそう遠くない所らしい。
海面を二人で歩いた時聞いた鳥の鳴き声が、一声キィと辺りに響いた。











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