小説 | ナノ

▼ 夏


チリリン。

風に揺られて、障子の窓枠にぶら下がる風鈴が冷たく鳴る。

外を眺めると山より高く積み上がる入道雲が青く抜ける空にもこもこと柔らかな丸い階段を作っている。


大きいよなぁ。

白くて大きいふわふわの、あれの中入ったらどうなんのかな。
気持ちいいかな。
鳥みたいに空を飛んで中に入れたらいいのに。


「空、飛びたいな・・」

窓の外を見てポツリと呟くと、はあ?と本を読んでいたサスケが訝しげな返事をしてナルトを見た。
風鈴がまた小さくチリンと鳴る。


「空飛んで何するんだよ」
「サスケは飛びたくねぇの?」

下らない事を言っているのが分かっていて、サスケは暑さに別世界に飛んでいるナルトを見てから適当に返事をした。

「それより暑いぜ」


サスケを見ると額にじわりと汗をかいていて、肌に張り付いた髪にそれがツ‥と伝った。
白いTシャツもうっすら肌の色が滲む。
篭る空気が湿気を含んで外からの日光がジリジリと畳を焼いた。


「悪かったなー。この部屋クーラーないんだってばよ。だから天然の風で我慢してってば」

そう言って首振りにしていた扇風機を強にしてサスケに向けると、サスケの黒い前髪がバサバサと激しくなびいた。
急に風を当てられたサスケは驚いてギュッと強く目を瞑る。
それでも汗が飛ぶのが気持ちいいのか、おでこ全開のサスケは文句を言わずに目を虚ろに開いて口を開けた。


「これ天然の風じゃねぇよ」

風のせいで少し震えた声でサスケが笑った。
そんな姿を見ておかしくなる。


部屋に来るのなんか慣れっこになって、食べかけのスイカを横に置きながら畳の上寝そべって本を読む。
自分の隣で見せるその明らかな安心感が嬉しくて、その時だけ一人暮らししている事を忘れられる。

そんな時だけ二人の家。



「なぁ海行こうな」

雲を見ていたら海が見たくなってそう言うと、あまり興味のなさそうな返事が返ってきた。

「補習とかあるんだろ」
「そんなの何とでもなるってば」
「いい加減な奴‥」


頭のいいサスケは余裕かもしれないけど、俺は熱血教師や補習に虐められて大変なんだ。
少しは劣等生の苦労も味わってみろってばよ。



縁側に出ると去年植えた向日葵が元気に花を咲かせていた。

大きい花を一つだけ咲かせる物や小さい花がいくつもある奴もあるけれど、皆かいがいしく育てただけあって根本の植物も一緒に青々として元気だ。

傍のジョウロで水を汲む。

蛇口を捻るとキュっと音がして、水がプラスチックの黄色いジョウロの底に当たってバババと大きな音を響かせた。
向日葵達に注ぐと、サラサラと冷涼な音で土の色を濃く染める。

太陽の光が雫と水のアーチにキラキラと反射した。



「いてっ」


後頭部に何か当たって驚いて振り返ると、サスケが縁側に座ってこちらを見ていた。

どことなくむくれた顔で見つめていて、片膝立てた腕に置く手の平にはスイカの種。


「馬鹿ウスラトンカチ。オレの相手しろ」


さっきまで本を読んでいたくせに人が植物観賞を始めた途端に邪魔をして、物理攻撃を加えた上に至極俺様な態度を取った後サスケは、自分の言葉に照れたのか頬を薄く染めた。

傍若無人な事をされているというのにその顔を見ると変な苦笑いが止まらない。

サスケはその顔がまた気に入らなかったのか余計に顔を膨れさせて、今度は顔面にそれを飛ばしてきた。

「ってぇ!何すんだってば!」
「お前がウスラトンカチだからだ」

そう言ったサスケは俺がむすっとしてオデコを摩ると、ようやくとても嬉しそうにフンと笑った。


仕方ねぇなと思って苦笑しながらジョウロの水を適当に木の根元にぶちまける。

本当に勝手な奴だけれど、それでも来年の夏も隣にこいつが居てくれたらいいのにと思う。



カラカラと縁側に向かって外履きを鳴らすと、近くの木にとまっていた蝉がまたミンミンとうるさく鳴き始めた。


屋根の上に盛り上がる、白い入道雲が綺麗だ。











後書き

年齢は、中二〜高一位でしょうか・・?;
学パラのようですがよく分かりません;
家、何故か広そうだ・・;






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