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願い星




*注:某曲をイメージして書かれていますので、そう言った表現がお嫌いな方はご注意下さい。

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――どこにいたって、つながっているよ。
 

今日みたく、まぶしいくらいの満天の星空の夜には
いつも彼女のその言葉ときらきらした笑顔を思い出す。
 
 
 
 
 

  『願い星』
 
 
 
 
 

「…忘れ物は無い?」

「うん、大丈夫!」
 
見送りはいらないと言われたものの、どうしてもその背を送りたくて、ごねる彼女を説得したキルロイはワユと共に早朝の門の下に立っていた。
 
彼女が初めてこの砦に来た日から腰に提げていた小さな鞄と剣ひとつ。
それだけを手に旅立とうとする彼女は、頼りないなんて言葉はとても当て嵌らない。キルロイの瞳にはとても強く大きく、誇らしく見えていた。
 
「強くなりたい気持ちは分かるけど、危ないと思ったらすぐ逃げるんだよ」
 
「うん!」

「あと、強そうって理由だけでむやみやたらにその辺りを歩いている人に決闘を申し込まないようにね」
 
「うん!」
 
「それから、お金が無くても出来るだけ野宿は避けて宿で……あ、それとどこかでアイクに出会ったら皆が帰りを待ってるって、伝えて」
 
「うん!」
 
「あとは、怪我したら放っておかないですぐに教会に行ってね。薬草や傷薬の数にも限度があるし……あぁ!あと、それと…」
 
「…キルロイさん!」
 
言葉を遮るようにしてワユの腕が伸びる。
ふわりと彼女のやわらかい髪が頬をくすぐったかと思うと、強い力で抱き締められてキルロイは次の言葉を失った。

「…キルロイさん、あたしは大丈夫。絶対もっともっと強くなって、いっぱいに自分の強さを誇れるようになったら……ちゃんと帰って来るから。
キルロイさんが待っててくれてるこの場所に。…あたしの、もう一つの家族が待ってる家に。約束する。
 
だから、…大丈夫だよ!」
 

そう言って僅かに身体を離し、少女の面影を残したいつもと変わりのない顔でワユは笑った。
自分の心配や不安を彼女は感じ取ったのだろう。すべてを遮ってしまうかの様に発せられた「大丈夫」の言葉が、とても大きく感じられる。

「でも、心配してくれてありがと!キルロイさん、大好きっ!!」
 
いつもの無邪気な様子でワユは再び首に腕を絡ませてキルロイの胸に顔をすり寄せる。
今は確かに感じられる、いつも当たり前のように傍にあった彼女の存在。このぬくもりがほんの数分後には自分の手に届かない所に行ってしまうのかと思うと、キルロイの涙腺は急速に緩み始めていった。
 
 
 
――駄目だ、笑って、見送らなきゃ。
 

唇を噛み締め耐えているのを悟られないよう、キルロイもワユの背に腕を回して強く抱き締める。
 

そうだ、本当は僕だって一緒に行きたいんだ。一緒に世界を回って夢を追う君の手助けをしたい。出来るだけ近くで、君が夢を叶えていくさまを見つめていたい。
 
だけど、それはどうしたって叶わない。自分の身体の脆弱さを誰よりも知っているからこそ、無理を言ってついて行った所で彼女の夢の足枷にしかならない事は分かっている。
 
 
 

だから、
 
 
 
「……ワユさん、門を出たら…振り返らずに歩いて。
だけど旅に疲れた時は…いつでも戻ってきていいからね」
 
「うん、…わかった」
 

彼女の顔にかかる髪を指先で払い、キルロイはそっとワユの唇に口付けを落とした。
1秒、2秒……前の晩、同じ寝台の中で数え切れないほどに交わしたはずの口付けを惜しむように、唇同士を合わせたままで時間だけが流れて行く。
 

そうして、数分。
朝の訪れを告げる鳥が高く鳴いたのをきっかけに、二人は静かにお互いの身体を離した。
 

「…じゃ、あたしもう行くね。」
 
「……うん。…行ってらっしゃい、ワユさん。」

「えへへ、行ってきます!」
 

最後にそう明るく言うと、ワユは身を翻してキルロイに背を向け歩き出した。
一歩、一歩、小さく遠ざかって行く彼女の背中がぼやけていく。
 
 
 
ワユは願い通り振り向かなかった。
一度だけ足を止めて僅かに空を仰ぎ、それから何かを振り切るようにして駆け出すと、あっという間にその背中は見えなくなってしまった。
 

せめて姿が見えなくなるまでは、と思っていたキルロイの頬をあたたかいものが伝う。
 
 
 
あぁ、まだまだ僕は弱いな。
 

未だ残る彼女のぬくもりを胸に、一人残された門の下でキルロイは暫く立ち尽くしたままだった。
 
 
 
 
 
***
 

あれから、どのくらいの時間が流れたのか。
 
最低限教えた文字を駆使して、時折旅先の彼女から文が届く事もあるけれど
彼女の声、笑顔、ぬくもりがキルロイの元に届けられる事はない。
 

ワユが旅立った後、砦のすぐ傍にキルロイが建てた小さな教会。
その小窓を開いて天を仰げば、雲ひとつない星空が視界いっぱいに広がった。
 
星が流れたら願いが叶う、と教わったのは一体いつの話だっただろうか。
その話をした時、子供のようにはしゃいでいた彼女もきっと同じ星の光の下で、今にも零れそうな星たちを見上げて流れ星を探しているんだろう。
 
 
 
願いはひとつ。
あの日からずっと祈り続けてきた、彼女の無事。
 
 
 
しゃらりと落ちる星が描く軌跡に、
キルロイは目を閉じてただひとりの笑顔を思い浮かべた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
願いをかけた星の下、息を切らしながらあの日背を向けた門を目指してひとつの影が駆けて来ているのを、キルロイはまだ知らない。
 
 
 
 
 

Starry Heavens.
 
 
 
 
 

 相互記念にカカオ様から頂きましたキルワユでした。
曲は某「君と響き合うRPG」の主題歌ですが、キルワユ過ぎてもうっ…!真っ直ぐなワユさんと優しいキルロイさんがたまらんです。

カカオ様、ありがとうございました!これから宜しくお願いします^^


2010.10



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