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無自覚シーソーゲーム




人間が好きだ。
それもとびきり普通の人間が。

普通の──何の特徴もない人間が起こす、予想外の行動が面白くて仕方ない。


変わっていく意識、行動、言葉。


それら全てが見ていて楽しくて面白くて。だから、俺は人間が大好きだ!愛してる!



─…予想外は嫌いじゃない。寧ろ愛すべき人間の起こす予想外は大好きだけれど、嫌いなのは大嫌いなバケモノが起こす予想外だ。


それは理不尽で、単純。
綺麗過ぎて吐き気がする。

─…だから、俺は理不尽な理由で、綺麗過ぎるほどまっすぐな暴力を振るうシズちゃんが大嫌いなんだよ。











それは、ただの興味本位でしかなかった。
どういう顔をするのか─…ただそれが知りたかっただけ。


…あわよくば、いつも振るわれる理不尽な暴力の仕返しになれば良いとは思ったけれど、そんな感情はあくまでオマケでしかなかった。

どういう反応をするのか、それが大事だっただけ。

それだけなのに…。

「…シズ、ちゃん?」

何が起こったのか分からない──そんなぽかんとした顔をして固まっているシズちゃんに、思わず遠慮がちに声を掛けてしまった。

だって、まさかそんなに驚くなんて思わなかったから。タバコの味のする口内がやけに生々しくて、この現状が夢なんかじゃないんだって、何より鮮明に証明していた。


沈黙。シズちゃんは、相変わらずぽかんとしたままで、手にしていた煙草が地面に落ちたのに、それを見もしないでただ真っ直ぐに。
子どもみたいな瞳で俺をぼんやりと眺めていた。

その瞳に、どうしてか胸がどくんと重く鳴って、何だか心が落ち着かなくなる。
そんなことを悟らせたくなくて、相変わらずマヌケ面を晒しているシズちゃんの前でひらひらと手を振ってみせた。

「どうしたの?もしかして気持ち良すぎてびっくりしちゃった?」

そう揶揄するように言って、笑みを浮かべた俺にシズちゃんはようやく我に返ったようで、次こそは飛んでくるだろう自販機に備えて地面を蹴った俺の視界に映ったのは、顔を真っ赤にして、口元を押さえるシズちゃんで。

かぁと赤く紅潮する肌に。
サングラス越しでも分かるほど、動揺と羞恥で揺れる瞳に、ますます心臓が鼓動を早めていく。


─…こんな感情、俺は知らない。
予想外もここまで来ると腹立たしい。思い通りの反応が得られなかった気がして、ちっと軽く舌打ちすると、未だ視線を彷徨わせるシズちゃんの前髪を袖から取り出したナイフでさっとなぞってみせた。

ぱらりと宙に舞う傷んだ金髪にようやくいつもの見慣れたシズちゃんの顔に変化する。
それが何だか惜しいような気がしたけれど、飛んできた自販機にその感情は霧散した。

「いーざーやあああ!!」

次いで振り下ろされる標識をひらりと避けると、適当に手を振ってみせた。

「アハハ!シズちゃん、またね!」

そうとだけ言うと、響く怒声を振り切るように駅へと駆けていく。


走りながら浮かんできたのは、先程のシズちゃんの顔。
子どもみたいに純粋な瞳。朱に染まった頬。口元を触れる仕草。

─…そんなことばっかりが浮かんできて、舌打ちする。



─…ただの興味本位だったんだ。
キスしたらどんな反応するかなって。


標識振り回して怒鳴り散らすかな?それとも思いきり唇を拭かれるかな?
─…そんな俺の予想を裏切ってあの反応だ。

「…だからシズちゃんは大嫌いなんだよ」

読めないその行動に苛立ちを込めて呟くと、駅構内の壁に寄りかかった。

そんなに走ってもいないのに、どくん、どくんと心臓が鳴る音がやけに耳に響く。何だか顔がやたら暑い気がしたけれど、走ってきた所為だと決め付けて、ふっとため息を吐いた。

口内には、まだ微かに煙草の苦みが残っていた。



end.








恋に無自覚な臨也さんが書きたくて書いてみた。
結果、何か女々しくなった気がしてorz
ちなみに、ちゅーはフレンチの方です←聞いてねえw