夜長
……さむいっ!
あたしが元いた時代とは違ってこの時代には暖房もなければこたつもない。こちらの時代の冬は夜になれば特に冷え込む。
(藩邸の人に七厘つけてもらおう…)
そう思って着物の上に羽織りを着て廊下に出ると今日はいつもより明るかった。…今日は満月なんだ
ふと見ると縁側に人が座っていた
暗くても分かる愛しい人
「晋作さん?」
「おぉ!杏絵かっ!」
「そんな格好で居たら風邪ひいちゃうよ」
「だったら…」
「きゃっ!」
晋作さんにグイッと腕を引っ張られあっという間に彼の腕の中にすっぽりと収まっていた。後ろからぎゅうっと抱きしめられる。
「こうすれば寒くないだろっ!」
晋作さんの抱きしめる力はどんどん強くなる
「…今日は満月だな」
「うん…」
「満月に照らされた杏絵は特別可愛いなっ!」
「な、何言ってるんですか!」
「…杏絵」
「…うん?」
「…好きだ。杏絵…好きだ」
囁くような声。甘くて、切ない声。思わず涙が出そうだった。
晋作さんはあたしの頬に口付けをして、もう一度抱きしめ直した。
「もう少しこのままでいさせてくれ」
晋作さんはただただあたしを抱き締めた。満月はさっきいた所ともう違う所に移動していた。随分と時間が経ったようだったけど晋作さんと居る時間はとても短く感じていた。
「最近は夜が長くなってきたな」
「うん…冬だね」
「長い夜もお前と居ればあっという間だ」
「…」
「悪かったな、長い間付き合わせて」
晋作さんはあたしを立たせ、自分も立つとあたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「今夜こそ一緒に寝るか?」
「ね、寝ません!」
「ぉおっ、でかい声を出すなっ!」
「だって晋作さんが…」
「はははっ。だが、俺はいつだって本気だぞ?」
「…え?」と顔をあげるとすぐに晋作さんはあたしの額にそっと口付けをした。
「おやすみ、杏絵。また明日な」
夜長
(小さな喜びを胸に眠る)
2010.12.26
スイトピー(ほのかな喜び)
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