あの折原臨也が、街から消えた。

そしてそれは、奴を知る殆どの者にとっては大きな損害だったと聞く。
あいつは反吐が出るような最低男だが、嫌、最低男だったが、その仕事っぷりはなかなかのものだったらしい。
求めていた情報を、早く、正確に届けてくるあいつは、裏の連中にとってはかなり重要視されていたようだ。

だからこそ、そういった連中は臨也が消えた当初、そりゃあもう血眼になって探していたのを俺は知っている。
なぜなら、俺の元にそういう奴らがやってきたからだ。

「お前が折原を殺したのだろう」
そう何度問われたかわからない。
勿論、俺は殺してなどいない。
けど俺と臨也の関係を知っている奴ならば、俺が殺したと考えるのはまぁ妥当だろう。
実際、あいつは俺が殺すつもりだったし。
臨也が消えて、心残りと言えばそれだけが心残りだった。

それに俺は「折原臨也が死んだ」などという情報は信じていなかった。
だって、あの臨也だ。
俺が何度殺そうとしたって殺せなかった、あの臨也が簡単に死ぬなんて考えたくもない。
それに俺から逃げようともしなかった臨也が、するりと逃げるような真似をするなんて思えなかったのだ。
だからこそ俺は、数か月たてばまたあいつは俺の前に姿を現すのだと思っていた。

にも関わらず、あいつは数か月たっても一年たっても、俺の前に来ることはなかった。

俺が臨也が死んだということを受け入れられたのは、あいつが街からいなくなってからちょうど2年後の日だった。
新羅に呼ばれて、臨也の死体が見つかったという話を聞いたからだ。
山の奥の方に埋められていて、渇いた土の中だったことから白骨化はあまりしておらず、簡単に身元がわかってしまったのだという。
最も、発見したのは警察ではなく、粟ナントカ会とかいう男たちらしい。
そりゃあ捜索願が出されていないのだから、警察が動く訳もなかった。

「静雄、」

「臨也は、もう死んだんだ。」
新羅の言葉は、何故だか酷く響いた。

臨也のいない街は静かだ。
今ではもう後輩もできて友人もいて、平和な日々が続いていた。
イラつくことも減り、キレることも減った。
幸せな、筈なのに。

新羅からその話を受けた後、一度だけ新宿の家を訪ねてみたことがある。
しかし管理人に話を聞けば、あいつはいなくなる数日前に出て行ってしまったらしい。
試しに部屋を見せてもらったが、家具も何もなく、俺が以前ぶっ壊した筈の扉はすっかり元通りになっていた。
今頃はきっと、あの家に新しい住人がいることだろう。

臨也に投げた筈の公共物は直されて。
臨也を殴った手の感触は薄れてきて。
臨也のいた痕跡が、跡が、消えていく。
あいつはいつか、俺の中から消えてしまうのだろうか。

あいつがいなくなってから、仕事を終えて部屋でぼんやりをしていると、ふと臨也のことを思い出す時が増えた。
ゆっくりと瞼を下ろして、臨也を思い浮かべてみる。
歪んだ風に弧を描く唇に、薄く細められた紅い目、そして走るたびにさらさらとゆれる短い黒髪。
一つ一つのパーツは鮮明に覚えているのに、臨也と言ってしっくりとくる顔を思い浮かべることができなくなったのは、いつ頃からだっただろう。
声も最早、思い出すことができない。
死ぬほど嫌いだったあの俺のふざけたあだ名を呼ぶ声すら、もう思い出せないのだ。

【…静雄】
「あ?なんだ?」
【……辛いなら、耐えるんじゃないぞ】

帰り道で出会ったセルティが、去り際にそうPDAを見せてきた。
俺が、何を耐えているのだというのだろう。


臨也がいなくなってから数年がたった。
街は、もうあいつの存在など忘れているのだろう。
あの悪名高いあいつでさえ、こんな風にさらりと忘れられてしまうものなのだなぁと感じた。



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