卑猥注意!事後っぽいです


一夜だけでいいと思ったのは、自分だった。

深夜。ふと目が覚めた時には時計の短針は2を指していて、室内の電気は消されているので当然辺りは暗い。
ごろん、と仰向けだった体を横向きにし、剥き出しの肌に直接触れる布団の感触を味わう。
先ほどまで火照っていたからだは少し冷やされたようで、今ではもう大分下がってきているだろう。
じわじわと体の内側から鈍い痛みが襲ってきたが、気にしないことにする。

数分前に目を覚ましてからようやく暗闇に慣れ始めてきた視界。
視線を少し下げてすぐ目に入るのは、痛んだ金髪だ。
俺の家のベッドは大きいから、今こうして大の男が二人並んで寝ても何も問題はない。今日、大きすぎるこのベッドに初めて感謝をした。

酔っているシズちゃんを家に誘って、半ば押し倒すように行為を促したのは全て俺だ。
酔ったシズちゃんは普段とは違い欲も高まっていて、なにより俺をいつものように扱ったりしない。
普段視界に入ったら即殺そうと追いかけてくる男を、いざやぁ、なんて甘い声で呼んで抱きしめてくるシズちゃんを知ったのは、いつだっただろうか。確か、初めて酒を飲んだシズちゃんを見た日。
とにかく何であれ、シズちゃんは酔うと俺への敵意が薄れるらしい。
それを利用して、俺はシズちゃんを捕まえるために行動を起こしたのだ。

もうお気づきの方も多いだろうが、俺はシズちゃんが好きである。
そしてこれはもう常識なのだが、シズちゃんは俺が大嫌いである。
そんな関係で、俺がシズちゃんを好きだと言えるはずもない。
が、俺も人間なので欲というのは高まっていく。
そういうことを配慮し計算した結果、出た答えがこれだ。

一夜だけ、シズちゃんに抱いてもらう。
それを最後に、俺は池袋から出ていく。

会っていたらきっとまだ好きになってしまう。
一度知ったからだをまた欲してしまうだろうから。
だから俺は、もう、会わないと決めたのだ。

床に放られていた下着やズボンに足を通して、ひとまず身なりを整える。
とりあえず今はまずこの家から出ていって、朝になってシズちゃんが仕事で出て行ってからどこかへ行けばいいだろう。
荷物は揃えてある。
新居先も用意した。
別に、ここでなくたって仕事ができないわけではないのだ。

シズちゃんの髪の間に指を差し込んで、するすると梳く。
あどけない子供のような寝顔が愛しい、ひどく愛しい。

好きだ。
ごまかせないくらい、シズちゃんが好きだ。

キスがしたい。
抱きしめてほしい。
名前を呼んでほしい。
抱いてほしい。
今まで願ってきた殆どのことは、今夜のたった数時間でかなえられてしまったのだ。
たったひとつ、「これからもずっと」という想いだけ捨てれば、こんなにも簡単に手に入ってしまうものだったのだと気づかされた。

あ。
駄目だ。

泣きそう、かも。


最後に、最後だから。
「ごめんね」
小さくつぶやいて、俺はその額に小さくキスをする。
ちゅ、と小さな音をたてて唇を離した。
「……ばいばい」

好きだったよ、じゃない。
今も。好きだよ




「……何がばいばいだ、この野郎」


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