短編 | ナノ






「御幸くんとはどこまでやったの?」

お昼休み、友人が突然そんなことを言うからお弁当を吹き出すかと思った。

「いやいやいや、何もありませんよ」

小声で全否定する私に友人は「隠さなくたっていいじゃん。付き合って来月で半年でしょ?」なんて多分御幸は知らないようなことを言った。

と言うか、ここは教室でお昼休みでざわざわしているとはいえ、御幸はクラスメイトなんだからやめなさい。
聞こえたら困る。

「何もないんだって」




そう、本当に何もないんだから。




クラスメイトの御幸一也とお付き合いして来月で半年になる。
だけどそれ、全部私の勘違い説が私の中で浮上中。
勘違いとかキモ過ぎて死ねる。


だって御幸なんて野球が恋人どころか既に野球と結婚してるんじゃないかってくらい野球バカなんだもん。
そんな御幸が好きだから文句はあんまりないんだけど、とにかく二人になることがない。

御幸は寮住まいだし、毎日野球だし、
じつは私と御幸の接点なんて、野球部もお休みになるテスト期間しかないんだ。


御幸とは一年の時もクラスメイトで、始めての席替えで隣の席になった。
「苗字ってノート綺麗にとるよなー」

ある日御幸にそんなことを言われた。
隣の席だって言うのにほとんど話したことが無かったのでびっくりした。

「ノート使う?さっきの授業ちょっと寝てたよね」って笑ったら、「やば、バレてた?」って御幸も笑った。
それからノートを貸すようになって、「苗字って実は頭いい?」なんて言われて、テスト前に二人で図書館で勉強するようになった。
二年に上がっても同じクラスでなんとなく毎回の勉強会が続いていた半年前、
急に御幸が教科書から目を離さずに言ったんだ。



「付き合って」って。



何に?って一瞬思ったけど、顔をあげた御幸の顔が赤かったから言葉を飲み込んで頷いた。

御幸一也が好きだったから。








でも、あれもしかしたら
「(これからも勉強会)付き合って」だったのかも知れないって最近思う。

相変わらず私と御幸の接点はノートを貸すこととテスト期間の勉強会だけだ。
違いなんて、時折LI○Eが来るようになったくらい。
それだって、たいした話題でも無ければ頻度が多いわけでもない。
二人で出掛けたこともないし、なんなら学校以外で合ったこともない。

始めのうちは私から連絡したりもしたけど、返事は半々で虚しくなってやめた。

今は席も離れているから毎日話をする訳でもないし、今も御幸はフリーだと思われてるから相変わらずちょくちょく告白されている。

あーなんか考えただけで、悲しくなってくる。
でも、私からは別れてあげないって決めてる。私が御幸を好きなうちは、振られないならこのままでいたいって。

あと、別れ話したら「は?何言ってんの?付き合ってなんかないだろ」とか言われるんじゃないかって言う恐怖もあったりする。


そんなことをぐるぐる考えては悲しくなって考えてを繰り返し数ヶ月…

仲の良い友人にだけは、相談したりして話していたから、時々御幸との関係の変化を聞かれたりして、現実を突きつけられている。









「名前!今日はさ、英語みてくんない?」

「うん、良いよ」



期末試験も近くなり、部活のお休み期間。
今回も私は御幸と図書館で勉強会。

「この辺が出るって言ってたよ」

「マジで?英語起きてたはずなんだけどなー」

「これ終われば大会始まるもんね、野球のこと考えちゃうんでしょ」

「あぁ」

ほら、御幸にとっての野球に勝てる要素なんて一つもない。
野球しか見てない。



目の前に広がった教科書達だって、御幸にとっては野球をする為に必要な一つだ。赤点取ったら部活出られなくなるらしいから。

それなら私も野球をする為の一つにくらいはなっているのかな?
テスト範囲わからないと困るからって意味で。

いや、そんなこと他の誰にだってすぐに変わられるからダメかな。


「名前?」

「え?あっ、どこかわかんない?」

「…いや、ぼっーとしてるから」

「あ、ごめんね。ちょっと考え事」

「何?」

「え?たいしたことじゃないよ。ごめんね。」

小さくため息をつかれた気もするけど、御幸はそれ以上突っ込んではこない。
再び視線は教科書に戻って、私も自分の勉強へ意識を戻す。

図書館には他にもテスト勉強をする人達がいて、普段より少し賑わっている。

それでもテーブル席に椅子が2脚しかないこの席は本棚の影に隠れて近くには誰もいない。






御幸が急に左隣に座る私のペンを持つ手に触れた。

「わっ!どうしたの?わからないとこある?」って言いかけて言葉を飲み込んだ。

いや、言葉を発する事ができなかった。


御幸の唇が触れて、私の言葉はかき消された。

何が起きたか理解出来なくて目を見開いて固まっていたら、あの時と同じ顔を赤くした御幸が目の前にみえた。





「こーゆーことされるの、いや?」




「…嫌じゃないけど、びっくりした。」

「ごめん。だって名前心ここにあらずだからさ」

それは貴方のせいです。なんて言えるわけないけれど、今までぐるぐるしてたものが消えていくきがした。



「あのね…もう一回…」

「可愛いこと言うなよ。」

そう言って御幸が瞳を閉じるから私もつられて目を閉じた。























「御幸!あんたねぇ名前泣かせたりしたらただじゃおかないからね!」

「は?」

「名前弄ぶなら別れてあげてくれない?」

「なんでそんなことお前に言われなきゃ行けないわけ?」

「半年付き合って手の一つも出さないとか!名前はあんたのタダで見てくれる家庭教師じゃないんだからね!つか、家庭教師だと思ってんならそう言ってやってよね!!」

「……それ名前が言ってたのか?」

「名前が言うわけないでしょ?あんたとの関係、聞き出そうとしたら何も無いからって泣きそうな顔されただけ!」


別に手を出したくなくて、出さなかった訳じゃない。

名前前にすると柄にもなく緊張するんだよ。
余裕見せてカッコつけたいんだよ。

そんなことわざわざ言うわけにも行かないけど、不安にさせたい訳じゃないから…



「ってことは出してもいいんだよな?手。」


覚悟してろよ。





「いや、あの…御手柔らかにしてあげてよね?って聞いてないし、どこ行くんだあいつ…………なんかごめん名前」

そんな友人の呟きが私に聞こえるはずはなかった。







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