短編 | ナノ






「だーかーら!なんで俺に言うんだよ」

「だって言えないんだもん!!」

「そんなん本人に言わなきゃどうにもなんねーだろーが」


クラスメイトの名前が俺の前の席を陣取ってお昼休みにグチグチ言ってやがる。

因みに名前は御幸の彼女だ。

彼氏のヤローは部のことで呼ばれて出払っている。

「だいたい何かあるたび俺に言うのやめろよ。惚気聞かされる方の身になれよな」

「惚気てないよ!悩んでんじゃん」

毎度毎度くだらねーことで悩んでは、御幸のやつには言えないとか言って俺に愚痴る名前。
つーか、御幸の前では良い彼女演じ過ぎなんだよ。

「だって御幸は私のこと重くない女だと思ってて、だからこそ付き合ってくれてるんじゃん?こんなこと言ったらやっぱり他の女の子と一緒だってバレて振られるもん!」

「お前程重い女いねーと思うけどな、俺は」

「私もそう思ってるさ!でもさ、嫌われたくないから気のない振りしちゃっててそしたらその姿が素の私だと思われちゃったんだから仕方が無いじゃん」

「最初が悪過ぎだわな。で?結局買ったのか?」


そもそも今回は、名前が昨日女友達と夢の国に行ったらしく、ニコイチのネズミのストラップを買いたかったらしい。

けど、御幸にあげたらウザがられるよね…とかそもそもそんなキャラじゃないし恥ずかしくて渡せないし、でもあれを付けるの憧れてて…とかなんとかかんとか至極どーでもいいLINEをよこしたのだ。

もちろん俺は
知らねーよ!買いたきゃ買えばいいだろ!!とだけ送った訳だが、むしろ既読スルーしなかった俺を褒めて欲しいぜ。


まぁ、多分御幸は付けねーだろうけど。
受け取るくらいは…いや、どーだろうな??


「ううん今回も、買えなかった…」

「結局買わなかったのかよ。てかまたかよ…。何回目だよ全く」

そう、しかもこの話、今回が初めてではない。
確か3回目くらいなきがする。

友人達と行くたびに買うか悩み、俺に連絡をよこし、結局買わない。

本当にイライラする。

「ご、ごめん。」

「いや、謝ることじゃないけどよ。別に御幸と一緒に行けばよくね?そっち誘って二人で買えば?そうゆうもんだろ、だいたい。」

「それは無理だってわかってるし、そこまでわがまま言うつもりはないんだよ。野球忙しいのも、いくら時間があっても練習とかに時間使いたいのも分かってるつもりだからさ。ただね、あのストラップ可愛いし、なんかその…か、カレカノっぽいし…それお揃いで付けられたら会いたくてもそれ見て元気出そうだから…」

「だからそれ、御幸に言えよ」

「こんなウザイことくらもっちーにしか言えない」

「くらもっちー言うな」

「くらもっちーなら付ける?」

「…それ付けてたら寂しくないつーなら…まぁ、多分付けるかも、な」

と言うか付けるだろ。
恥ずかしいけど、カレカノっぽいとか独占欲とかちょっとはわかるからな。

「もうさ、お前御幸なんかやめて俺とつきあえば?」


だってそう言いたくもなるだろ?
御幸には本心言えなくて俺には言えるなんてさ、俺といた方が幸せじゃないか?
なんて、実は半分くらいマジで言ったんだよ。

「なーに、人の彼女口説いてんだ?」

「げ、御幸!」

「つかさっきから何?二人でコソコソ真剣に話し込んで。で、最後は告白?何なわけ?」

「ばーか!テメーが構ってやらねーから俺がとばっちり受けてんだろうが。痴話喧嘩に巻き込むんじゃねーよ!」

「は?俺ら喧嘩してたの?」

御幸が名前を見る目怖ええよ。
俺でも一瞬凄む。
名前なんて泣きそうになってるし、俺の後ろに隠れるし。

「違う。してない」

「じゃあ何?俺には出来ない話?で、倉持には出来るわけだ?」

「ち、違う。大した話じゃないし、み、御幸は、関係ない」

「俺は関係ないのに、俺と別れろとかいう話になる?それ、俺関係ないの?」

「あーもう止めろよ御幸。俺が言ったのは冗談だし、話してのも本当に大した話じゃねーよ」

これ以上は名前マジで泣くぞ。

「とりあえず名前の口から話聞きたいんだけど」

昼休みも終わるってのに御幸は名前の腕を掴んで無理矢理連れていった。

あーほら、話が拗れた。

俺に言わせればさ、











「で?倉持と何話してたの?」

「いや、だから…」

「倉持と付き合うの?」

「それはくらもっちーの冗談だから」

「……半分以上本気だったよ」

「え?なに?」

「…冗談じゃなかったらどうするわけ?」

「どうもしないよ、私……み、御幸が好きだ…し」

「ならなんの話してたかくらい教えて」

昼休みが終わるチャイムを遠くで聞きながら屋上へ続く階段で、名前を抱きしめた。

「昼休み名前と話しようと思って急いで戻ったら倉持とあんな真剣な顔して話しててムカついた」

「ご、ごめん」

「しかも告られてるし」

「いや、だからあれは冗談だから」

「…」

「くらもっちーにはね、私が重い女で御幸に振られるかもって相談してた」

「は?」

「昨日、日菜子達と夢の国に行ってきたの」

「いや、知らなかった」

「うん、言ってない。御幸練習忙しいだろうし別に面白い話題でもないし」

「それで?」

「……」

「何?言って?あー…俺と行きたかった?」

「ううん。いや行きたくないわけじゃないけど、行けないのは分かってるからそれは良くて…」

彼女のこういう物わかりが良い所が好きで付き合ったハズなのに、もうわかってるからと受け入れられているのに何故か悲しい。

もっとわがままを言えばいいのに。

「ストラップ…」

「ストラップ?」

「付けたくて」

「うん?」

なんだか話が良く見えてこない。
ストラップがどうしたって?

「あの、ネズミカップルが…いや…あのごめん。本当に無理。自分がキモイ。」

「何が?意味わかんねーよ」

真っ赤になった名前がその場にしゃがみこむ。
意味がマジでわからない。

「言えって」

「嫌だ。キモイ、重い、ウザイ」

「キモくても重くてもウザくてもいいよ」

「良くない!」

「ストラップがどうした?」

「……」

しゃがみこんだままの名前に目線を合わせるように俺もしゃがみこんで覗きこめば、目に涙が浮かんでいた。

「泣きたくないし、御幸に重い女って思われたくない。重い私は他のとこで発散して御幸の前ではいい子な彼女でいたい」

「別にいい子な彼女が欲しいわけじゃないよ。だいたいそれで他の男に甘えられたら立場ないし、むかつく」

「……どこかに出掛けたりとかはね、大丈夫なの。野球大事なのわかるし野球やってる御幸が好きだから、でも時々私、彼女なのかなーって不安になって……ネズミカップルのねストラップニコイチで半分に出来るヤツ可愛くて凄く付けたかったの。1人の時にそれ見たら不安が小さくなりそうで。でもね、いつも買えない。渡せないし、渡したら嫌われそうだし」

「それ倉持に相談してたのか?」

「うん。」

「バーカ。そんなの倉持に相談したって解決しないだろ」

「うん、しない。」

名前はしゃがみこんだまま泣いてる。
泣いてるのがバレたくないのか顔をあげないで声もださずに。
でもわかる。
見てればわかる。見てたからわかる。

いつもこうやって隠れて泣くんだ名前は。

「もっと甘えればいいのに」

「…?」

呟いた言葉は名前にはっきりとは届かなかったらしい。

「いくら俺だって365日休みがないわけじゃないんだからな。自主練はしてるけど、あんまり遅くまでは居られないけど、今度の休みに一緒に行こう。で、欲しいヤツ買おう」

「!?」

「な?」

「あっ…えっ…でも」

「倉持と行くとかいうなよ」

「それは言わないけど。」

「行くのは…」

「一緒に行きたい…ダメ?」

「…ダメじゃない」

「よし!あ、あと倉持のことくらもっちーとか呼んでるんだし俺の事は一也って呼んで」

「…!?」

「呼んで」

「か、一也…」

「よく出来ました」

余裕ぶってそんな軽口叩いて名前の頭を軽くぽんぽんしたけれど、やばいにやける。

名前が可愛すぎて、にやける。
とりあえず5限はサボりだな。


















名前が思うよりかなり、御幸はお前にぞっこんなんだから、勝手にお揃いのストラップでもなんでも付けてろよ。って思うよ、全く。

そんで、俺を巻き込な。

いや、マジで。


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