短編 | ナノ






俺と付き合っていることを多分彼女は誰にも話していない。


別に俺としては隠さなくて良いんだけど、周りの環境からそうする方が無難だと判断してるんだろう。


自分で言うのもなんだけど、俺はモテる。


俺の彼女だって言ったら、彼女に迷惑がかかることもあるかもしれない。
だから俺からは何も言わない。



そんな彼女…クラスメイトでもある名前が教室で友人達と話している声がする。

別に休み時間に話し相手がいなくて盗み聞きしている訳では断じてない。

スコアブックを見る俺の耳に勝手に声が入ってくるんだよ。






「私の彼氏腕枕が好きで毎回してくれるよ」

「えー。私はあんまり好きじゃないなー。こっちの首が痛くならない?」

「なるけど、やってくれないと愛されてない感ない?」

「確かにねー」



「「で?名前はどう思う?」」


「へ?わ、私??」


彼氏の存在を話したことがないからだろう、話を振られて驚いている。

というか、腕枕なんてしてやった覚えないけど。なんて聞こえてくる会話に1人胸の内でつぶやく。

だいたいそんなことをするより先に名前が腕にぎゅっと捕まってきてそのまま寝たりして…いや、これ以上考えるのはよそう。

だいたいそれとこれとは別だろ?
別に名前のことを愛してないとかそういうことじゃない。

でも彼女としたらやって欲しいものなのか?やっぱり…?

なんて他人の会話から真面目に考えこむ俺の耳に彼女の声が微かに聞こえた。


「うーん。腕が痺れるでしょ?腕枕ってきっと。だから投球に影響出たら嫌だしやってもらわなくてもいいかな」



ガタンっ!


思わず勢いよく立ち上がってしまい椅子が音をたてた。


皆が一斉に俺を見てる。


顔が熱いのは誰にも気づかれていないはず。



名前がこっちをきょとんとした顔で見ているのが見えて、とりあえず教室を素知らぬ顔で逃げ出した。




だってそんなの、


俺のことを思ってだなんて、

そもそも隠すつもりあるのかよって、

隠さなくても良いんだけども、

俺のことだとはわからないだろうし、

名前だって俺が聞いてるだなんて思っていないだろうけど、


あんなに柔らかい笑顔で話す名前を見ていたら、
あの腕に捕まって眠る姿が腕枕をしなくてもいいようにって配慮なんだって思ったら、


名前が愛おしく思えた。











「てか!やっぱり名前彼氏いるんじゃん!!いつもはぐらかしてさ!教えなさいよね!」

「野球部?野球部なんでしょ?」

俺がいなくなった教室で、名前が友人達から質問責めに合っていたのは、その場にいない俺でも予想がついていた。


「な、なんで?!」

「「誰だってわかるわっ!!」」








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