キラキラヒカル | ナノ







その日、予想通りというかあんな事があった後だから当たり前というか、苗字はベンチに現れなかった。


練習中はさ、集中してるから気にならねーんだよ。
けどさ、休憩入る前とか休憩あがりとか、何かと視線をベンチに送ってしまう自分がなんつーか馬鹿だなぁとか思うんだ。
あんな事言わなければ良かったのかも知れないけれど、後悔なんかしてないし、したくない。
嘘を言った訳でもないし、ちょっと軽かったか?とは思うけど…けどさ、あれが原因で苗字が野球観たいのに来れないってなるならやっぱり言わない方が良かったのか?とか思って、いや、あれ?これを後悔って言うのか…?

だいたいもう一度ちゃんと話したいと思ってもあっちに避けられてたらどうしようもない。

「あーそういや、連絡先も知らねーや」

「誰のっすかー?集中しましょーや!」

「うるせーよ、沢村。あ、そうだお前苗字の連絡先知らね?」

「苗字?知りやせん。なんでっすか?」

「いや、なんでもねー」

「苗字ってあんま男子と話すタイプでもないっすからねぇ」

沢村は俺の方なんか見もせずに、よくわかんないやつですよ。なんて話すから、いつもみたいに何も考えず思ったことを話しているんだろう。
でもさ、俺の知ってる苗字は違うよ。
沢村みたいに同じ学年な訳でも、同じクラスなわけでもない。
出会ったのだって最近だけど、それでも知ってる。

苗字は昔ソフトボールやってて、野球が好きで、今は怪我のことで頭を悩ましていること。

俺は知ってる。


なぁ、苗字?
それってやっぱり特別だってことじゃないのか?
俺のうぬぼれ?







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