サンザシ | ナノ







「あれから連絡が来たんだ?」

朝から鋭い小湊がそう声をかけてくる。
何故こんなに鋭いのか…それとも顔に出ているのだろうか。

朝、苗字から連絡が来てホッとしたのは本当だったので、まぁ。と答えるしかなかった。

だからと言ってそれから苗字から連絡が来るわけでもなかったのだが。









「あ!クリス先輩こんにちは!」

「あぁ、ん?今日はスケッチブックは持っていないんだな」
放課後いつものように俺のところに駆け寄ってくる苗字の両手にいつものスケッチブックはなかった。

「はい!大体構図がまとまったので、そろそろキャンバスに下書きしていこうかと思ってるんです。」で、今日は色とか距離感の参考に写真を撮らせていただこうと思ってこっちを持ってきました!
そう言って苗字がカメラを持ち上げた。

「写真…人物を撮るのか?」

「人物というか、背景との距離感を撮りたいので、顔とかは写らないですけど…迷惑ですか?」

「いや、それなら大丈夫だろう」近くで撮るつもりがないなら練習の邪魔にもならないだろうし、なんて思っていたら苗字が1歩俺に近づいて、背伸びをして顔を寄せてくるから驚いた。

「クリス先輩!他人事みたいに言ってますけど、私が撮りたいのはクリス先輩だけなんですよ?よろしくお願いします!」

「…!あ、あぁそうか。わかった」
俺がモデルなんだからよく考えれば当たり前のことなんだが、苗字からクリス先輩だけ撮りたい。と言われて柄にもなくドギマギしてしまった。

本人は意図していないのに、何故だか俺だけが振り回されているような気がする。
最近、こういうことがちょくちょく起きるから困ってしまう。


「今度の日曜日にキャンバスを買いに行って来るので、月曜日からは今まで描いていた場所てイーゼル使わせてもらいますね!」

「今度の日曜か…。その買い物一緒に行ってもいいか?」ちょうどその日は練習がないんだ、そう伝えたら苗字は真っ赤になって、え?!あ、はい!どうぞ!!なんて慌てるから、振り回されてばかりじゃ性に合わないからなと笑った。

「なんのことですか?」未だに赤い頬の苗字を正直に言えば可愛らしいな、と思ったがまさか触れられるはずもなく、無意識に伸ばしてしまった手で頭を撫でてやると、ぱっと明るい表情を向けられた。

「何でもない。日曜のこと、詳しくは連絡する」


それだけ言って練習に向う。



その日は何故だか身体が軽くて、丹波に絶好調だなと声をかけられながら、我ながら単純だなと思った。











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