次の日から私は授業が終われば、クリス先輩を追いかけてグランドを見にやって来た。 スケッチブックを片手に。
構図が決まるまでは好き勝手にスケッチをしまくるつもりだ。
「クリス先輩!こんにちは!今日もよろしくお願いします!」
「あぁ、またスケッチか?」
「はい!これだ!って言う構図が決まるまでは毎日スケッチに来ます」
「頑張っているな」
クリス先輩はいきなり押しかけて来た私なんかにも凄く優しい。 迷惑そうな顔一つしないで少しだけ微笑んで、褒めてくれたりして最近毎日が楽しい。
部活前に挨拶をした後は私も絵に夢中になってしまうから、クリス先輩に話しかける余裕もないし、あまり近くでみていたら迷惑だと思うからAグランドのベンチ裏、フェンス越しに小さな簡易椅子を置いてスケッチをする。
あぁ、今日もクリス先輩は綺麗だ。 グランドに入るといつもの小さく微笑んでくれるクリス先輩は消えて迫力のあるオーラが見える。 それを絵にしたい。
投げて打つだけが野球じゃないなんて、野球を知りもしないくせにって言われるだろうけど、クリス先輩を見てればわかる。 そんな絵を描きたい。
「まだ残っていたのか?」
突然後ろから声をかけられて、振り返るとさっきまで視線の先にいたはずのクリス先輩が後ろにたっていた。 まだ、ユニホームな所をみると練習が終わったばかりなのだろう。 季節は夏へ向かい始めているとはいえ、日が沈み始めていた。
「こんな時間まで描いていたのか?」
「はい!なんだか描きたかった絵がかけそうで手が止まらなくて!クリス先輩を見てると描きたいモノがたくさんたくさん出て来ちゃうんです」 だってだって本当なんだもん。クリス先輩の汗一つだってキラキラして、野球が好きなんだって、面白いんだって、俺はここにいるぞ!ってグランドを支配するような空気全部を描きたくなっちゃうんですよ!
そう伝えたらあまり表情の変化が大きくないクリス先輩がちょっと目を見開いてそれから少しだけ赤くなった気がしたけど、それは沈みかけの夕日のせいかもしれないな。
「見せてはくれないのか?」
「出来上がるまでダメです」
「どうして?」
「これなら先輩に見てもらえる!ってなるまでダメです」
「いつコンクールの締切なんだ?」
「8月までですね」
「じゃあ楽しみにしてるよ」
「はい!」
「暗くなってしまったな。苗字家は?」
「学校から自転車で20分なんです」
「そうか、じゃあ行くぞ」
え?と聞き返したら、クリス先輩が「送って行くから自転車持って校門で待っていろ。着替えてくる」ってそれだけ言って更衣室に向かうから、そんなのいいですと断る暇もなくて私は素直に校門でクリス先輩を待つしかなかったのだ。
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