君のとなり | ナノ







午後練中は休憩の選手達のアイシングを実際にしながらやり方を指導したり、試合形式の練習をしている生徒がベンチに戻った所で身体の癖を直すアドバイスをしたり、怪我をした生徒がもしいればそれをみたりしている。

他にも、渡辺くんやクリスくんと他校の分析をしたり(あくまで私がするのは身体の癖からの分析のアドバイス)、2年生の工藤くんや東尾くんはトレーナーに興味があるとのことで、私のわかる範囲のことを指導したりしてる。

そんなことをしていれば、19時半なんてあっという間で、そこから監督や礼ちゃん(最近仲良くなって名前で呼んでる)達とミーティングをして、夕飯を食べ損ねながら20時半を迎える。だいたいその時間には帰宅するんだけど、夕食後は生徒達が自由時間となるので、自主練組みに付き合ったりすると帰るのが23時過ぎたりもする'。

うーん、やっぱりもう少し学校寄りに引っ越そうかな…なんて悩むのは本職はこの春から外来勤務に移動になって残業がほとんどないから。

確実に学校に来ている時の方がハードスケジュールだ。


そんな今日もミーティング後には沢村くんと約束している。
食堂で夕飯をしっかり食べてきた沢村くんと昼からなにも食べてない私。

沢村くんの元気が眩しいよ…

「名前さん!お待たせしました!」

「大丈夫。今日は何をする?」

「柔軟を見て欲しいんスけど。」

「いいよ、じゃあ室内練習場に行こうか」

「はいっ!」

室内練習場には何人も自主練に励む選手がいて、何人かは沢村くんと一緒に私の話を聞き始める。

「この間、名前さんに身体が柔らかくても怪我をしやすい選手もいるって話を聞いて、身体全体の筋肉の移動方法聞いたじゃないですか?」

「うんうん覚えてるじゃん」

「でも、筋肉がうまく移動してるか自分ではよくわからなくて見て欲しいんス」

「なるほど。了解」

皆、こうしてアドバイスしたことを自分で考えて実践してくれるから私も頑張れる。








「まーだやってんのか?いい加減上がれよー」
やりすぎも身体にくるだろーが。そんな声がして時計を見上げればもう23時をさしていて、入口には御幸くんが見えた。

「わっごめんね。話し込んじゃって」

「全然っす!あざーっした!」

疲れさせるような練習をさせていた訳じゃないけど、もう少し時計を見るべきだったなぁと反省しながら全員練習場から出るのを確認する。

「あ!大丈夫っす!俺、鍵占めときますから」

「ううん鍵は私やるから沢村くんは早く上がって休んで」

「わかりました。おねげーします!」



誰もいない室内練習場の鍵をかけて、私も更衣室へ。

外は真っ暗で、ナイター照明ももちろん既に消えている。
駅までは自転車だけど、やっぱり少し怖い。

もう少し早く上がれば良かった。

自転車を押しながら職員用の裏門を出ようとすると、そこに人影が見えた。

「送るよ」

「御幸くん…!いやいや大丈夫!生徒に送ってもらうとか有り得ないよ」


「それはさ、俺だから?」

「え?」

「…クリス先輩ならいいのかなと思って」

「へ?」

よく意味がわからなくて聞き返したけど、御幸くんは既に先を歩き始めてた。





「本当に大丈夫だから、大人だし!」

「大人とか関係ないし、それ以前に女でしょ」



なんでこの子はこういうことを言うんだろう。
一瞬あの頃みたいにときめいてしまった自分が恥ずかしくて空に視線を逃がしたら、星がキラキラ光っていた。














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