愚民

意見を曲げたくはなかったのよ。もう、これ以上は言わないと心に決めたの。だけどやっぱり、私はいつも通りで、数分前の気持ちなんて都合よく消すことができていた。

「どうしてわからないの。こんなにも、こんなにもあからさまでないの。もし、態とこんな仕打ちをしていないとしたら、私、あなたが本当に憎い」
「君は、いつだって僕を憎んでいるでしょう」
「どうして、わからないの……どうして私の気持ちが汲み取れないのです。あなたはそうやって、私から逃げたいだけなのだわ」
「馬鹿を言いなさんな。僕がいつあなたから逃げましたか。いつも、こうして向き合っているでしょう」

眉がそっとひそめられるのを見て、私は心がスッと冷めて、冷静になってきていた。あの皺の原因は私なのだと、なぜか妙に優越感に浸られたのだ。

「逃げるために、向き合っているだけじゃないの。表面の汚れだけを拭き取ったって、綺麗にはなりゃしないのよ。私はね、この汚くて愚かな私を、あなたにどうにかしてほしいのに!」

洋服の裾を思わずぎゅっと握りしめると、なんとなしに、泣けてきそうで俯く。すると、握りしめた手を、私のそれより大きく、ひんやりとした、少し皮がかたくなって、ペンダコのできている手で覆われた。

「いいんです、あなたは、それでいいんです。そのままで、少なくとも私にとっては、とても綺麗なんですから」
「狡い人…本当に、狡い」

そんなことを言われてはもう何も言えなくなってしまう。仕方なく、私は今日も、言葉と雰囲気に騙されて目を瞑る。

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