桜嘩学園

【設定】遊也と瑛司は恋人同士. あんなことやこんなことも済ませている.

・・・・・・・

─寮棟の廊下にて─

「────お。宇佐見瑛司」

「……あ」

遊也の部屋に行こうと廊下を歩いていたら、不意に誰かに名前を呼ばれた。

低く大人っぽい声。振り返ると、そこには長身の男子生徒が俺を見ていた。

切れ長の目がやたらと色っぽく、漆黒の髪をした、とんでもない色男。

そのずば抜けた容姿とダダ漏れの色気に、いっそ本当に学生なのかと疑ってしまう。

見たことのあるシルエットに、首を傾げた。

この人、どこかで会ったことあるような……?

そう思っていると、その人は面白そうに片眉を上げ、ふっと笑った。

「お前、宇佐見の弟だよな?」

「……」

宇佐見の弟って……。

一応俺も宇佐見なんだけど。多分琉司兄貴のことだろう。

そう思って次の言葉を待ってその人を見上げる。

「あいつ、どこ行ったか知らねえか?」

「……さ、あ」

兄貴の場所なんて俺に訊かれても知らない。

この人誰だろう…。

警戒して少し後退ると、その人はそんな俺を見て少し不思議そうな表情をした後、ああ、と何かに気付いたように口角を上げた。

「そういや、まだ名乗ってなかったな。俺は風間恭一。生徒会副会長やってる」

その言葉に、俺ははっとした。

そうだ。この人副会長の風間さんだ。

桜嘩に入学したばかりの頃、確か入学式で暴走した兄貴を壇上から引きずりおろした人。

あー、なるほど。思い出した。

何か引っかかりみたいなものが取れてすっきりしていると、風間さんは興味深そうに俺の顔をじっと見つめてきた。

「……っ」

え、ななに??

急に近付いてきた整った顔に、思わずどきりとする。

風間さんの目は髪と同じ漆黒で、透き通っていて綺麗だ。

見るものを魅了するというか、虜にするというか。

でもそれもこんな近くで見詰められると話は別で。

あまり知らない人にまじまじと見つめられて居心地が悪くなる。

思わず首をすくめると、風間さんはようやくそんな俺の様子を察してくれたみたいで離れてくれた。

「へえ。宇佐見とあんまり似てねえな」

「……」

よく言われます。

意外そうに言う風間さんに心の中でがっくりすると、風間さんは次に俺の髪をくしゃっと撫でた。

「まあ、生意気な目はそっくりだけどな」

そう言って笑う風間さんは楽しそうで、俺はどう反応したらいいか分からなかったから俯く。

いや、目以外にも美形な兄貴に似たかったよ……。

悔しいけどDNAには逆らえない。

「……お前、藤原と付き合ってるんだってな?」

「……!」

藤原、という名前を聞いた途端、自分の眉が珍しくぴくりと動いたのがわかった。

分かりやすい俺の動揺に、風間さんはくく、と笑う。

「宇佐見がすげえへこんでた。まあ、俺としちゃ好都合だが」

「……?」

「ああ、いやこっちの話だ」

俺が首を傾げると、風間さんは苦笑した。

「何にせよ、あの手のタイプは面倒だろ。精神面でも、体力的にも」

ぽんぽんと頭を叩かれ、俺は思わず目を瞑る。

「まあ、仲良くやってろよ。……ああ、そうそう。宇佐見のヤツ、見付けたらよろしく言っといてくれ」

そう言って、風間さんは「じゃあ俺、生徒会室行ってくるわ」と手を離した。

「じゃあな、宇佐見の弟」

くるりと背を向け、ひらりと手を振る風間さんの背中を見詰める。

……一体何なんだったんだ。

そう思って、俺も遊也の部屋に行こうと踵を返した。

◆ ◆ ◆

「──瑛司ぃ〜」

「……」

遊也の部屋に入るなり、遊也に抱きつかれた。

身体の大きい遊也に抱きつかれて情け無いながらも少しよろける。

「寂しかったよぉ〜。瑛司と1秒でもはなれるなんていやだぁ」

「……」

なんて可愛いことを言うんだ、遊也は。

俺は、ベタベタしてくる遊也にくすぐったいような気持ちになりながら遊也を抱き返した。

遊也、本当に大型犬みたいだなぁ。

ぶんぶんと尻尾を振っていそうだ。

「──瑛司ぃ、今日なんでちょっと遅かったのぉ?」

ソファに押し倒されながら、ちゅ、と額にキスをされた。

「……べつに……」

特に何があった訳でもないしな。

そう思って言うと、遊也は一瞬身体を固くした。

? 何だ?

「ふーん……。別に、かぁ」

「……?」

「……瑛司の、嘘つき」

「……っ」

不意に首筋をがり、と噛まれて思わず息を呑んだ。

痛い。

何で?

訳が分からず困惑したまま遊也を見上げる。

遊也はいつもとは違う……笑顔なんだけど、何だかぞっとするような暗い光を目に灯していた。

「遊…也……?」

「──さっき、副会長の風間恭一としゃべってたよねぇ? 俺、見ちゃったぁ」

にっこりと告げる遊也に、さっと自分の顔から血の気 が引くのがわかった。

遊也は俺が嘘を吐いていたと思ったに違いない。いや、そこらへんはまだいい。

問題は、風間さんと喋ってたところを見られたこと だ。

「ねぇ、何で俺以外のヤツとしゃべるのぉ? 俺言ったよねぇ?俺以外としゃべんないでって。……それと もぉ、なぁに、このお口要らないってこと?」

「……っ」

ほら、やっぱり。

「俺以外としゃべる悪いお口は、要らないよねぇ?どうしようか、縫っちゃう?それともベロ切っちゃおうか? あ、そしたらちゅーもできるしねぇ。ふふ、俺あたまいー」

遊也は光のない暗い目で俺を見下ろしながら、おぞましいことを笑いながら言う。

唇をつつ、と綺麗な指先でなぞられて、恐怖にぞくりとした。

「遊也……、…舌……なくなっ…たら、……ベロちゅ……できない……」

慌てて俺は遊也に説いた。かなり恥ずかしかったけど、こうでも言わないと遊也なら本当にやりかねない。

ぎゅっと抱き締めながら言うと、遊也が俺の背中を強く抱き返した。

重なった体温と、鼓動。

遊也は、こうすると落ち着くことを俺は以前の経験から知っている。

「……ふふ。そぉだねぇ。遊也のお口は、俺とおしゃべりして、ちゅーして、愛し合うためにあるんだもんね?ごめんねぇ」

ごめんと謝りながら俺の頭を撫でる遊也。

その優しい手つきに安堵しながら目を閉じると、急に息ができなくなった。

「ん……んん、ふ……っ」

驚いて目を開けると、遊也のドアップがそこにあった。

遊也はくちゅくちゅと音を立てながら俺の口内を犯していく。

「……うん。瑛司は悪くないよねぇ。悪いのは、瑛司に近付くヤツらだねぇ。うん、瑛司は悪くないよ。いいこ、いいこ〜」

いいこと言いながら俺の頭を軽くぽんぽんと叩く遊也は、いつもの遊也に戻っていた。

それにほっとしながら深いキスに応えると、遊也が喉奥で笑った。

「……瑛司ぃ」

甘えるようなそれは、俺を求める合図。

「……ん」

俺はこくりと頷いてすぐ近くにある遊也の顔を引き寄せた。

唇が重なる。



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