万事屋の柱に刻まれる銀さんと新八君と神楽ちゃんの背比べを見つけ、ぼんやりと眺めた。血の繋がりはないけれど、端からみた彼らはまるで家族だ。
強い絆で結ばれている三人の成長の証がこの家に刻まれている。それは、ここが彼らにとっての家であることの証。いくら銀さんの彼女だからといって別々に住まう私は所詮はお客様。

「おめーもする?」

背後から銀さんが覗き込んできた。

「でも私は万事屋じゃないし……」

三人と一匹で万事屋。私は部外者。少し寂しい気もするけど、あの絆には入れない。だから、苦笑を浮かべて遠慮する。

「なーに言ってんの」
「あだっ」

伸びてきた指が私の額を軽く弾く。

「おめーは坂田家の一員でしょうが。俺の懐に入っちゃてんだから、素直に認めなさい」

優しく微笑んで、大きな手が頭を撫でた。
私は懐に入ってもいいのでしょうか。
嬉しくて、頬が緩んだ。万事屋の柱に私の名前も刻まれる。私という存在が、万事屋に残るのだ。

「よ、よろしくお願いします」
「はいよ。おら、背中も頭もぴったりくっつけて、背筋はしゃんと伸ばす。ん。それでいい。はぁい、じゃあ、ちょーっと失礼しますよ。……っと、おめーは座っても立ってもちっさいなぁ」

銀さんは私との身長差埋めるように背中を丸めて屈み、同じ目線になって印を付けてくれた。銀さんの喉仏が近距離にあって、その男らしい隆起に少しだけ緊張してしまった。

「うし、でけた」

目線を下げた銀さんと視線がかち合う。びいどろみたいな深紅の瞳が私を捉えて、離さない。互いに見詰め合い、自然と縮まる距離。鼻先がくっついたら二人して瞼を閉じて、唇を重ねた。

その日の夜、刻まれた自分の名前を指でなぞってにやけていたら、銀さんに肩を抱き寄せられた。

「そんなに嬉しいんですかぁ。……なんなら、ここに俺とお前さんのガキの名も刻んじゃう?」

あまりにもさらりと言ってくるから「そうですね。それもいいですね」自然な流れで返して、はたと思考が止まる。

「ん?あれ?ねぇ今のもう一回言って下さい!ワンモア!」

鼻息荒く銀さんに詰め寄る。

「やなこった」

銀さんは赤い舌をペロリと出して意地悪く笑った。


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