・銀河侍のパロ
・幼女戦記や十二国記の設定を一部拝借


2XXX年、地球によく似ているが地球ではない何処かの惑星。
一人の娘が大変、つまらなさそうな顔で身だしなみを整えていた。

「千草様。そんな顔はやめてくださいな。もうすぐ戴冠式なのですよ」

「だって、戴冠式なんて……。嫌だわ。やっぱり私に一国の王なんて務まらないわ!」

父親である先代の国王が死去し、一人娘の千草が国王の座に着いた。今日は、その戴冠式である。
一国の運命が、国民の命が自分に掛かっている。その重圧が苦しかった。

「式は正午からですので、それまでお休みになられて下さいまし」

無機質な声を発した侍女は、千草に頭を下げると音もなく部屋を出ていった。
戴冠式に相応しい豪華な衣装は重く、肩が凝って仕方がない。早く済ませてドレスを脱いでしまいたい。溜め息を溢して、ソファに深く腰を掛ける。
部屋の戸を叩く音。どうぞ、と声をあげる。「失礼致します。」と一言断りを入れて部屋の中に入ってきたのは白い軍服に身を包んだ一人の銀髪の青年。

この銀河には、銀河侍と呼ばれる者達がいる。あっちの惑星には春雨、そっちの惑星には真選組、そしてこの惑星には攘夷。彼らは國に忠義をつくし、國の平和を護っているのだ。

青年の肩に掛かる金色で紡がれた緒尾や胸元を飾る数多くの勲章が、彼が上級将校だということを示していた。その中でも一際、異彩を放つ銀翼突撃章。この國でそれを生きて受勲される者は少なく、青年を若くして中将にまで上り詰めさせる程、大変栄誉のある勲章である。

「……陛下」

「嫌だわ、陛下なんて。今までの呼び方でいいわ」

青年は、はたと目を開き、やがてゆっくりと首を横に振った。

「そういう訳にはいきません。仮にも貴女は一国の王。」

千草は少しだけ寂しくなった。まだ、自分が"王女"の身分であった時は、よく"姫さん"と呼ばれ、からかわれていた。千草も青年を"銀ちゃん"と呼び親しくしていた。一緒に城を抜け出してパイが美味しいと評判の店に並んだり、宇宙船を飛ばして隣の惑星へ遊びに行ったりするなど"少しだけの悪戯"をして楽しんでいた。
青年が少尉へ昇級した際には、近衛兵として 千草の身の安全を護っていたのだ。
四六時中、歳の近い男女が一緒にいるのであるから、いつしか主従関係以上の感情が芽生えていた。
剣の腕が強く、顔立ちもそれなりに整っている。更には王室お抱えの上級将校とくれば女性が放っておくわけがない。青年が女性に告白される場面を何度も目撃し、千草は嫉妬にも似た感情を抱いたこともあった。どんなに美しい女性からの告白も全て断っていたと知った時、どんなに喜んだことだろう。同時に自分の存在が青年にとって負担になっているのではないのかと不安を抱くようになった。

「銀ちゃんは、私の近衛兵を務めるのは嫌じゃないの?」

ある時、何となく聞いてみた。青年は、きょとんとした顔をして「馬鹿な姫さんだな」と悪態をついた。

「嫌だったら、近衛兵なんてくそ面倒くせぇ任務、とっくに辞めてらぁ。戦場に出て手柄立てた方が出世に繋がるけどな……俺ぁ、別に興味もねぇし。それに姫さんのといるとサボり易くていい」

にやりと悪戯っぽく笑う青年の台詞に何れ程救われたことだろう。
しかし、先代の国王が病に伏して、次期国王はに千草なると噂されるようになってから急に態度が他人行儀のように他所他所しくなっていた。廊下で擦れ違っても声を掛けず、深々とお辞儀をするだけ。
更には「此からは私のことを"坂田"と御呼びください。それから、一介の兵である私に親しげな態度はお止めください。"国王陛下"として節度を護って頂きますよう、お願い致します」と、端正な顔に何の感情も浮かべず、訥々と話す青年、坂田銀時の姿が今でも脳裏に焼き付いている。銀時との距離が離れてしまった、この日ばかりは枕に顔を突っ伏して声もあげずに泣いた。



「陛下、暫しの御無礼を御許し下さい」

銀時の静かな呟きに、はっと我に返った。 千草が何のことかと問うより早く、銀時に抱き締められていた。整えられた身嗜みを崩さぬよう、そっと柔く。

「……ぎ、銀ちゃん?」

急な事に驚いて、思わず愛称で呼んでしまった。

「姫さん、耳の穴かっぽじってよく聞けよ……」

聞きなれた呼び方、砕けた口調。いつもの"銀ちゃん"として久しぶりに接した千草は何処か懐かしく、嬉しさを覚えた。
千草の背中を何度か優しく叩いた銀時は、穏やかなそれでいて決意に満ちた力のある口調で言った。

「国王が女だと知れ渡りゃあ、色んな奴等が國を乗っ取ろうと戦争を仕掛けてくるはずだ。俺ら"攘夷"はそれを全力で塞ぎ止める役割がある。……あんたに、俺の全てを捧げてやらぁ。だから、"さようなら姫さん"」

千草から離れ、少し、寂しげに笑った銀時はゆっくりと膝をついた。
白い手袋に覆われた手をとり、下方から真っ直ぐに千草の目を見据える。

「私、坂田は天命をもって陛下にお仕え致しましょう。御前を離れず、命に背かず、忠誠を誓うと、誓約申しあげます」

頭を垂れ、手の甲に唇を落とす。忠誠の意を示す口付け。
あとは主である千草の答えを待つだけである。

"許す"と言えば、もう二度とあの頃の関係には戻れなくなると、千草も銀時も分かっていた。二人の関係と国を天秤にかければ、優先すべきは何であるかも分かっていた。
千草は小さく息をついて銀時を見下ろす。
穏やかな、それでいて威厳を含んだ口調で言った。

「……許しましょう。坂田銀時、そなたは此からは我が身を、この国を命に変えてでも護るのです。」


此れは、地球から何億光年も離れた惑星Xの女王と、ひとりの騎士の話。




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