*死ネタ注意。
某映画のオマージュ作品。







ねぇ、知ってる?
人は死ぬと21グラム軽くなるんだって

何時だったか、彼女が口にした言葉だった。
何でも、その21グラムは魂の重さだそうだ。 この時、俺はそんな訳あるかと鼻で笑って、その場をやり過ごした覚えがある。

俺と彼女が出会ったのは、ほんの数ヶ月前の事 だ。開口一番に、女の身でありながら戦にでるなんて物好きなやつだ、嫁にいけなくなるぞと揶揄すれば、彼女は真剣な瞳をして家族の敵を取れるなら命なんて惜しくないと云った。

彼女は決して強いとは云えない。これまでの戦で生きながらえたのはきっと悪運の強さなのだろう。でも、彼女は、どんな境遇に置かれようと挫けることはなかった。とても強い眼差しで遠くを見据え、明日は明日の風が吹く、と何処かで聞いた事のある台詞が口癖だった。

俺は、そんな彼女に惹かれていた。
決して、美人や可愛いとは云えない、何処にでも居そうな顔をしていたが、時折見せる笑顔が愛らしかった。
愛しい、護ってやりたい、抱きしめたい……そう 思ったのは彼女が初めてだった。だが、臆病な俺は告白ひとつも出来なかった。白夜叉と異名を付けられ敵や味方から畏怖の眼差しを向けられる俺は、彼女を幸せにしてやる自信がなかったのだ。

だから、彼女が俺に好きだと告白してきた時、

お前を、女として意識したことはねぇ……

と冷たくあしらってしまった。本当は嬉しくて 仕方なくて、今すぐにでも抱きしめて、口づけを贈ってやりたかった。
俺も好きだ、と云いたかった。

だが、血生臭い俺なんかよりも、何処かで良い男を見つけて温かい所帯を持つ方が幸せな人生を送れるのではないのだろうか……そう思えば、益々気持ちを伝える事が出来なかった。

あの時、瞳いっぱいに水溜まりを浮かべながらも、泣くまいと必死に涙を堪えていた彼女の姿が、俺の脳裏に焼き付いて離れなかった。

ああ やっぱり告白しとくべきだった

今更、後悔しても遅い。 だって彼女は俺の腕の中で冷たくなっているのだから。

俺が屍の山で横たわっていた彼女を見つけた時には、もう虫の息程だった。

彼女は、閉じていた瞼をゆっくり持ち上げると、力無く笑って

ああ 最後に、貴方の姿が見られて……貴方の声が聞けて……良かった

と云ったのだ。
それが、最後の言葉だった。名前を呼んでも、身体を揺さ振っても、揶揄を含んだ言葉を投げつけても、彼女は、それっきり目を覚ます事は無かった。

「好きだよ。……俺ァ、お前の事がずっと好きだった」

彼女の唇に己の唇を重ね、この時、初めて自分の思いを口にした。

「ごめんな、俺ァ臆病者だから、こんな形でしか告白出来ねぇんだ……」

悲しくても、俺の瞳からは涙なんか一つもでやしない。
天人を斬って、斬って、斬りまくってきた俺は、何時しか泣き方を忘れてしまったのだ。
泣きたい時には素直に泣き、綺麗な涙を流す彼女が羨ましいと、ずっと思っていた。

頭上で、烏が一羽カァと鳴いた。屍の肉を喰らいに来たのだろう。彼女の肉も喰われてしまっては堪らない。

何処かに、埋葬してやるべきだと思った。

ああ、確か金木犀が好きだと云っていた。それなら、金木犀の根本に埋めてやろう。
調度、甘い匂いを咲かせる時期だ。

抱き上げた彼女は、軽かった。21グラム……そ れっぽっちしか減らないはずなのに、驚く程とても軽かった。




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