某朝ドラ(タイトルでわかると思います)の設定をパクりました。
攘夷時代捏造
ヒロインが関西弁
語りはモブ(ヒロインの祖母)
関西弁の使い方は曖昧なのであしからず。


ごちそうさん



はじめまして、皆さん。
私はぬか床のトラいうもんです。
え、なんでぬか床に名前があって、喋っているかやって?
それはですね、話とえらい長くなるんで省略させて貰いますが、生前人間やった私は生まれ変わってぬか床に住むようになったんです。
所謂、ぬか床の神様言うもんですわ。
このぬか床に住むようになって、日本はえらく変わりましてな。
天人というなんや妖怪みたいな成りをした人らぁが地球に押し寄せてきはって、天人から國を護ろうと立ち上がった若いお侍さんらと天人との闘い、所謂、攘夷戦争いうんが勃発しましたんよ。
あっちで戦争、こっちで戦争と各地で戦が起こっていました。私ん息子と孫娘が身を寄せる村にも、攘夷志士を名乗る若者たちがきましてんよ。
その若者たちを束ねる四人の男いうもんは、これがまたえらい若い人らでしてん。ついこの間、元服を迎えたか思うぐらいの若い青年たちでしてんよ。
そうですねえ、丁度、私の孫娘と同じ年ぐらいちゃいますかねえ。そんな青年達が自分よりも年上の血気盛んな男達をまとめていると考えると何だか少し悲しくなりますわなぁ。

あ、私ん孫娘は千草という名前でしてな。これがまた色気より食い気が目立つ女の子でして。幼いころに母親を亡くしてからというもの、私が祖母けん母規変わりになって育てていたんです。
私も老い先短い命ですさかいに、私の持っている全ての生きる知恵を千草に叩きこんでいきました。おかげで、料理の腕はピカイチになりましてなぁ。
料理を作らせたら右に出るもんはいないくらいの腕前で、村に滞在する攘夷志士のお侍さんたちに料理を作っては振る舞っていました。

「桂さん、炊き出し出来ましたよ」
「おお、千草殿。かたじけない。いつもご苦労だな」

千草が声を掛けた桂という男は、えらい綺麗な顔立ちをした、一見すると女の子のようにも見える青年でしてなぁ。これがまた攘夷志士を総括する頭の立場にいるいうんですから吃驚ですわ。

「そんなん、私らの台詞ですわ。お侍様が命掛けて戦ってくれてはるから、 私らの村に天人が攻めてこないんですよって」
「坂田さん、今日も来はりませんね」
「鳴呼、銀時なら心配するな。俺があとで持っていってやる」
「あ、私が持っていきます」

桂さんがいう銀時さんいうのは白夜叉という異名をつけられた青年のことです。
この坂田銀時さんいう方は、仲間から武神のように崇められ、また夜叉のような強さから恐れられているお方でした。
癖の強い銀髪に紅い瞳という変わった成りをしていますから、村の一部の人達も怖がりはって誰も彼に近づくことはしませんのや。
だから、彼も遠慮してなのかみんなとは食事をとらずに、ひとり離れた場所で食事をとることが多いのです。
そんな坂田さんに食事を運ぶ係りを千草はいつも担っていました。
最初こそ、坂田さんには冷たく突っぱねられていたんですが、千草のしつこいくらいなまでの接触に、彼も次第に心を開いてきたのか、最近では笑った顔を見せたり

「坂田さん、おにぎり持ってきましたよ」
「おう、千草。いつも悪いなぁ。今日の具はなに?小豆?」
「そんなん、おにぎりに合いませんわ。今日は我が家秘伝の佃煮です」
「おい、小豆馬鹿にすんなよ。小豆はなんでも合う万能のおかずなんだぜ」
「小豆をご飯にかけて食べるん、坂田さんぐらいやろ」

など、他愛もない会話をするようにもなりましてんよ。
坂田さんは千草から受け取ったおにぎりをがつがつと食べましてなぁ。

「うめぇな。やっぱ、あんたが作る飯はうめぇわ。あんたを嫁に貰う野郎は幸せだな」

と、口の端に米粒を付けて悪戯めいた笑みを浮かべて言いました。
千草は此の顔と言葉に、ころりと心を揺るがせましてな。真っ赤な顔をして「冗談言わんと、さっさと食べて下さい。洗い物が出来ひん」と皮肉めいた言葉を返しました。
恋愛よりも食への関心が強い千草ですさかい、仕方のないことですが。もうちょっと可愛い反応をするべきやと我が孫娘ながらに情けなくなりました。

そんな折り、ひょんなことから坂田さんの誕生日が近いことを知りましてな。千草は坂田さんの誕生日を祝いたいと甘いものが好き彼のためにケェキを焼こうと思っていたみたいですが、なんせ戦の最中ですさかい。ケェキに必要な材料が中々手に入らないんですわ。

「ああ、どないしよう。どないしよう。坂田さんの誕生日、もう直ぐや。何を作って、ごちそうさんって言わしたろうか。何を作ったら坂田さん喜ぶやろか」

千草はなにか思い悩む度に、私が住むぬか床を混ぜる癖がありましてな。
ぎゆ、ぎゆとぬか床を混ぜながら口癖のように呟いていました。
千草が坂田さんを思い、誕生日を祝おうとしてはるんは、彼女が坂田さんに恋をしているのか私には分かりやしませんがねぇ。純粋に美味しいものを食べさせて心から喜んで貰いたいという気持ちはひしひしと伝わってきたんですわ。




「千草ちゃん、これば使うて金時にケェキば作ってくれゆうが」

千草がケェキの変わりになる甘いもんを考えてると、黒いもじゃもじゃ頭の坂本さんいう人が、薄力粉と砂糖を何処からか調達してきましてな。

ほいたら今度は

「千草殿、これは三本杉の向こうのおちよ殿から頂いたものだ。言っておくが、俺はおちよ殿が未亡人だからといって逢いにいっているわけではないぞ!誤解するなよ!」

と、桂さんが卵とクリィムを調達してくれはりました。
ほんなら、お次はとばかりに

「おい。これやるよ」

と、ここいらでは珍しいバタァを持ってきたんは桂さんに負けず劣らずの美男子、高杉さんいうお方でした。
これは余談なんですが、この三人と坂田さんは仲良しでしてな。
高杉さんと坂田さんは毎日のように口喧嘩が堪えませんが、喧嘩するほど仲が良いといいますやろ。本人らは仲良しだと思われるんが嫌らしいですが。でも、心の底では信頼し合っているようでした。
坂田さんに誕生日くらいは甘いものを食べさせてあげたいと彼らなりに気遣りはったんでしょうなぁ。
男の友情いうんは、女の友情とはちょっと違っていて私はとても微笑ましく思いました。

さて、坂田さんの誕生日の日。十月十月。
千草はみんなが見繕ってきた材料で、ケェキをこしらえることにしました。しかし、なんといっても殆ど初めて作るケェキですさかい。いくら料理の腕がぴかいちの千草でも、こればかりはどうにもなりませんでした。ケェキいうのはベェキングなんちゃらという、ケェキをふっくらとさせる材料が必要らしいんですが、千草はうっかりとそれを入れ忘れてしまいましてねぇ。
仕上がったケェキはぺちゃんこの、しかも焼き時間を間違えた為に、所々焦げた凡そケェキとは言えない代物になってしまったんです。


「どないしよう。折角、みんなが材料を揃えてくれたのに。失敗してもうた。どないしよう。これじゃあ、坂田さんやみんなに合わす顔があらへん」

千草は焼き上がったケェキを前に絶望にうちひしがれていました。今から作り直すにしても材料も時間もないと、涙目になっていた時でした。
ひょいと背後から伸びてきた腕が、ケェキの端を千切りはりました。千草が驚いて振り返った先には坂田さんの姿。千草が止める間もなく、坂田さんはケェキの切れ端を口に含みはりました。

「少し硬ぇしなんかもさもさするな」

口をもごもごと動かしながら、坂田さんは言わはりました。その言葉に千草は身を縮こませてしまいましてな。きゅう、と胸の前で両手を握りしめて「や、やっぱり不味いんとちゃいますか」と、不安げな顔で坂田さんを見上げました。

「でも、味はいけるぜ。うん」

坂田さんはまた、ケェキに手を伸ばし、ぱくぱくと食べ続けながら言いました。

「ほ、ほんまですか!?」
「ほんまです。俺好みの甘さだし、これ全部俺にちょーだい。つか、これ俺の為に作ったケーキだろ」
「し、知ってはったんですか!?」
「最近、あいつらとこそこそしてるからよぉ。……もやっとして辰馬を問い詰めたら、俺の誕生日にケェキを焼いてくれるらしいって聞いてよ……俺のためを思って作ってくれたもんを不味いと思うわけねぇだろ」

坂田さんは、あっという間にケェキを平らげましてな。
指についたクリィムを舐めながら、口の端を持ち上げて

「ごちそうさん」

と不敵に笑って言いました。
その顔に真っ赤になって恥ずかしげに俯く千草を、坂田さんが愛しげな瞳で見詰めながら柔らかく微笑んでいたのは台所の隅っこに置かれた私、ぬか床しか知りません。

千草と坂田さんが、この後どうなったかは……皆さんのご想像にお任せします。




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