朝を告げる鳥の声に、千草は目を覚ました。障子窓の隙間から差し込む柔らかな陽射しは春の訪れを告げている。しかし、寝起き眼には眩しく、千草は数回瞬きをして目を慣らした。

――朝……?
何時の間にか眠っちゃっていたわ。

枕元にある時計を見ると針は六時を指していた。かぶき待ちの住人は、まだ寝静まっている時間なのか辺りは静寂に包まれている。
腹部に重みを感じ、千草は視線を落とした。千草の柔らかく細い腰に巻きつく逞しい腕。そこで漸く、銀時の腕に包まれたままだと状況を把握する。

――あああっ!わ、私……あのまま寝ちゃった!

昨夜の蜜事を思い出し、途端に千草はかぁと頬が燃えた。銀時の腕にしっかりと抱き締めらている為か、起き上がることが出来ない。

「銀さん……?」

小さな声で名を呼ぶが返事はない。もぞりと身体を動かして銀時の様子を窺う。彼は小さな寝息を立てて眠っていた。
すう、すうと銀時が息をする度に上下する厚い胸板。伏せられた瞼を縁取る睫毛は透き通るような銀色で。意外と長く、目許に影を落としていた。何処かあどけない寝顔に胸がきゅうっと締め付けられた。
思わず「可愛い……」なんて呟いてしまう程だ。
銀時の厚い胸板に触れてみる。
汗ばんでいてしっとりとした感触が心地好い。男性にしては珍しい、色が抜けたような白い肌に刻まれる無数の傷痕。沢山の修羅場を潜り抜けてきた証。
千草はこの傷痕を見る度に胸が締め付けらる思いをしていた。
まだ新しい傷痕を指でなぞる。
すると、銀時の眉がぴくりと動いた。唇を寄せて口付ける。舌先でちろりと舐める。そうすると、銀時の唇からなんとも艶かしい吐息が溢れた。身体の奥から何か妙な熱が込み上げてきて、千草は傷痕を舐め続ける。その姿はまるで猫のようだ。

「……いつになく積極的だなぁ、おい」

寝起き特有の掠れた声が降ってきて、千草は驚いて小さな悲鳴をあげる。

「お、起きてっ!?」
「あんなに穴が空くほど見詰められりゃあ、起きるっての」

くぁ、と銀時は欠伸を掻いた。普段となんら変わらない気怠い雰囲気を漂わせているが、妙な色気を孕んでいて千草は胸を高鳴らせる。ついと視線が落とされ赤い瞳が千草を捉える。

「つうか、朝から発情するほど、銀さんの寝顔そぉんなにかっこよかった?ん?」

両の口端を持ち上げて意地の悪い笑みを浮かべながら銀時は言った。千草は火を吹きそうな勢いで顔を真っ赤にさせる。

「し、し、知りませんっ!」

恥ずかしくて、まともに銀時の顔が見れず、千草は銀時に背を向けた。ふいに、項に鋭い痛みが走った。千草はひゃあっと悲鳴をあげた。背後で喉を鳴らして笑う銀時に項を噛まれたのだ。

「いやぁ、ね。あまりにも美味しそうな項が目の前にあったもんで」

かぷり、とまた項に歯を立てられた。生暖かく柔らかな舌が首筋を滑る。大きな手は身体の曲線をなぞるように撫で、何もつけていない無防備な乳房を揉みしだく。
堪らなくなった千草の唇からは甘い声が漏れた。
肩を掴まれ、くるりと反転させられる。天井を背後に、したり顔の銀時が「寝起きに一発ヤらせて?」と低く甘い声で囁いた。目をぎらつかせて舌舐めずりをする男に、抗えるはずもない。




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