とてつもなく幸福で、とてつもなく素敵な話を聞かせて差し上げましょう。……貴方だけに。

此れはもう何年も前の事です。
今日みたいな星月夜の日でした。
その日は、或る娘のお誕生日。
ほんの数年前まで、恋人と二人きりで積ましやかな誕生日会を開いていましたが、それが何時しか恋人が経営する仕事場の従業員件、恋人の家族のような大切な存在でもある少女と少年と大きな犬 、恋人が営む店の下で、飲み屋を開いている女性とからくり娘と猫耳の天人からお祝いされるような盛大な誕生日会になっていました。

え?説明がややこしいって?
まぁ、まぁ。最後までお聞きなさい。

夜四つを過ぎた頃です。
誕生日会はそれはそれ大いに賑わって終わりを迎えました。夜も更けてきたということで、娘は恋人に家まで送って貰うことになりました。

星月が輝く夜空の下、恋人が運転する原付バイクの後ろに揺られながら、娘は広い背中に額をくっ付けて幸福を噛み締めていました。
娘の家の前に着くと、恋人は厠へ行きたいと言い出し、娘の部屋へと上がり込んだのです。ところが、恋人は厠へ足を運ぶこともなく、娘の肩を掴んで真剣な表情を浮かべて「話がある」と言いました。
あまりにも真剣な表情をするものですから、まさか別れ話を切り出されるのではないかと、娘は内心不安でいっぱいでした。だって、娘は恋人のことを心底、愛していたのですから。
恋人はズボンのポケットから小さな箱を取り出して、蓋を開けました。
そこには、遠慮がちな輝きを放った指輪がひとつ。
娘は胸が高鳴りました。此れから、恋人が何を言おうとしているか。この指輪が物語っているからです。

「こんな安物で、すまねぇ。俺には今これしか買えねぇんだ……。俺さ、この通り金はねぇし……、家族ってぇのがよく分かんねぇから、いい父親になれるかどうかも分からねぇけど。……けど、お前を幸せにしてやるって自信はあるんだ。ずっとずっと……じーさん、ばーさんになっても……お前と一緒にいたい。……だから……俺と結婚してくれ」

恋人が云うように、指輪は決していい代物とはいえません。
ダイヤモンドのような高価な宝石ではなく、小間物屋で買えるような安い指輪です。
それでも、娘は嬉しかったのです。恋人が必死になって紡ぐ言葉のひとつひとつが、ダイヤモンドのような輝きを放つ宝石のように思えたのです。

娘は嬉し涙をほろほろと溢しながら「はい」と頷きました。


此が、かか様がとと様にプロポーズされたお話です。
……って、あらあら、寝ちゃっているわ。……ふふ。
あら、銀時さん。いらしたの?
ふふっ……なぁに?真っ赤になって。
え?俺の恥ずかしい黒歴史を話のは止めろって?
まぁ、酷い。私にはちょっとも黒歴史なんかじゃ、ありませんよ。
だって、凄く凄く嬉しかったんですもの。ねぇ、銀時さん。こうやって、家族三人で誕生日を迎えることが出来るなんて……。私は凄く幸せですよ。
……ええ、来年もまたこうして三人で私と貴方と、それからこの子のお誕生日をお祝いしましょうね。



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