銀八が既婚者です。苦手な方は注意。




居酒屋で数年ぶりに会った先生は、あの頃の面影を残したまま、より一層、大人の魅力が引き立っていた。

せんせい。
銀八先生、お久しぶりですね。

赤らんだ顔の先生の傍らに座り、先生が持っていたお猪口にお酒を注ぐ。

「久しぶりだな。卒業して以来だから、もう十年は経つかぁ?すっかりと、大人の女になっちまって」

先生はくしゃりと笑った。眼鏡の奥の目尻に皺が寄る。

「先生、老けたね」

なんてからかえば「うるせぇなぁ。アラサーだもん。仕方ねぇだろう」と喉を鳴らして笑った。
耳に馴染む低い声も、お猪口を持つ大きな手は変わらない。

先生、私の初恋のひと。
私の純潔を奪った悪いオトコ。
あの頃は私も若くて、大好きな先生に言い寄られたら断れなかったの。
甘い蜜の香りが漂う国語準備室。
少し乱れたシャツのまま煙草を吹かせた先生は、先生の膝の上でぐったりしている私の頭を撫でて愛を囁いた。
先生の武骨で大きな手は私を優しく犯し、淫らな娘に仕立ててくれる。
そんな手が大好きだった。

そして、銀色の指輪が輝く左手は大嫌いだった。


先生にお酒をたっぷり飲ませて、酔いに任せてホテルに雪崩れ込む。
歳を取っても先生の鍛えられた身体はそのままで。
私を荒々しく抱くのも変わらない。
私を抱いた後、先生は眠ってしまった。
先生を起こさないように、ベッドから降りて、こっそりと先生のくたびれた鞄へ手を伸ばす。薄汚れた黒革の手帳には、あの頃と変わらず奥さんの写真が入っていた。

今はもうこの世にいない人の写真を何時までも大事に取っておくなんて。
本当に、奥さんを愛しているのね。

顔を赤らめて眠る先生に言うと、先生は小さな声で奥さんの名前を呼んだ。
会いたい、と。
先生の一番には、まだなれないらしい。



(8/36)
|