きみがいとしい

 
 
アンケート企画作品
きみはやさしい の高尾目線
 
 
 
 
 気付いたら傍に居たあいつ。好きになった切っ掛けなんて覚えてない。それぐらい昔からあいつのことが好きだったから。泣き虫で、鈍くて、そのくせ変なところに気がまわって色んなことを気にするあいつがずっとずっと愛しかった。けれどいつまで経っても幼馴染のラベルを自分から剥がせないまま気付けば俺はもう高校生になっていて。それはつまりあいつも高校生になったということで。当たり前みたいに俺に引っ付いて同じ高校に進学したあいつは、俺のことを何だと思ってるんだろう。
 
「少なくとも男だとは思われてないね!」
「何なのだよ、急に」
「だって付き合ってる男とどうやったらいい関係になれるかって聞かれるんだぜ?」
 
 辛すぎんだろーよ生き地獄だよ、と溜息。邪険に扱う気満々の真ちゃんの視線にはもう慣れた。俺のハートは鍛えられたのだ。ちょっとやそっとの冷たい視線じゃ折れないぜ!バッシュのスキール音が響く体育館で真ちゃんに事情を説明してみる。眉間に皺寄せながらも何だかんだ結構真面目に聞いてくれる真ちゃんはやっぱりツンデレだ。
 
「つーか昔は和くん和くんて呼んでくれてたのに今もう高尾呼ばわりなんだぜ、呼び捨てとか酷ぇ」
「……知らん」
「まあなー真ちゃん童貞だからなー恋愛相談してもなあ」
「誰が童貞なのだよ!」
 
 えっ童貞じゃないの真ちゃん。いついつ?どこで?とすっかり話は脱線。俺の声がデカかったから先輩達まで騒ぎを聞きつけて拡散、結局その日はそのまま俺の愚痴は最後まで聞いてもらえずに練習が終わってしまった。……まあ、そもそも色恋のことを真ちゃんに相談するのは間違いなんだろうし別にいいんだけど。
 
「はあああ……」
 
 で、次の日の昼休み。なまえがいつもより落ち込んだ顔で俺の前の席にこっち向いて座ったかと思ったらクリームパンを頬張りながらこっちの幸せまで奪って逃がしそうなほどの深々とした溜息を吐いた。不味そうに食うなあ。丹精こめてそれ作ったパン職人に謝れ、と冗談めかして言ってみたら機械で大量生産だよ、とじとっとした目で睨まれた。そういう問題か?
 
「小麦農家の人には謝る」
「なんじゃそら」
 
 じっとり睨まれた拍子に気付いてしまったのはこいつが昨日泣いたであろうということ。瞼腫れてんじゃねーかこすっただろ。と内心で呆れながらも口には出さずに、さっき学食で買ってきたサンドイッチを取り出してなまえに向き直る。

「彼氏さんの愚痴だろ?」
「うん」
 
 なまえは他所の学校のやつと付き合ってるらしい。三カ月前に報告された時は殴ってやろうかと思った。あ、その男をな。今はその時以上に殴ってやりてーけど。告白したくせに付き合い始めたら放ったらかしってどういうことだオイ。なんとなくで受け入れたなまえもなまえだけどさ。つーかそんなんなら別れりゃいいのに、って何度も言ってんのにでもまだ三カ月しか経ってないしなどとなまえは言う。意味分かんねーよ。長さとか関係無くね?まあ俺が別れてほしいってどっかで思ってるだけなんだけど。
 
「お前昨日泣いただろ」
 
 煮え切らないなまえを見兼ねてそう指摘するとなまえは明らかに動揺して泣いてないよなどと速攻でバレる嘘を吐いた。お前デフォルトでそんなに瞼腫れてたら怖いっつーの。思わず深ーい溜息を零したらおろおろ目を泳がせたなまえが俺を見てた。……そんな顔してどうせ関係無いこと頭によぎらせてんだろ、知ってんだぞ。うわあ凄い溜息、とかそんな感じの呑気なことを考えてるんだろう。俺には分かる。
 
 ……こんなにお前のこと分かってんのに。
 
 じりじりくすぶり続ける自分にいい加減嫌気が差して、この三カ月何度も何度も言おうとしては躊躇ってきた台詞がうっかり口から滑り落ちてしまった。

「俺にしたら?」
 
 うわあやっちまった、と思いながらもなるたけ平然を装って俺はサンドイッチを咀嚼し、紙パックのジュースを飲む。まだ、まだ間に合う。嘘だよバカ、という一言でこれはまだ嘘に変えられる。無かったことにできる。……のに。ああくそ、お前なんでそんな間に受けた顔してびっくりしてんだよ。今まで見たことねーよそんな顔。
 
 食べていたパンにむせながら俺をおずおず見上げたなまえを見て後戻り出来ないのだと知った。まさかこんな流れで伝えることになるとは思っていなかったが、覚悟を決めなければならないらしい。
 
 ……とりあえず、当たって砕けとく?
 
 
(120806)

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