空契 | ナノ
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2.夢だと言って (1/5)

遥か遠くで声が聞こえた。
────気がした。
気がしただけだ。
聞こえた、というよりは、
頭に、こう、ぽーんと響いてきただけだ。
─────多分。

そして、多分。
多分、それは、

“ごめん”“ごめん”“ごめん”

そう繰り返す、悲しそうな声、
─────だった気がする。
とっても自信が無い。だって勘だから。

『……、  …』

そして、今度はちょっとだけ近いところから声が聞こえた。気がした。
ノイズに紛れて聞き取れない。

『……ど……ましょう…?……』

誰の声だろうか。
聞いたことはない声。

「…うん………めが………のを待つ………」

若い男の声。
…いや、俺も十分若いと思うけどさ。

『……ですね……』

こっちは……不思議な声だ。
普通だけど、うーん?なんか違う?
少し違和感を覚えるような、声。

『………ゲンさん……
…の波動……かしい……』

その声に耳を疑った。
聞き間違いだろうか。げんさん、なんて聞こえた。
どちら様? 自分の知り合いにそんな人はいません。

「そう………、
ルカリオ……」

………再び自分の耳の調子を疑う。
ああ、ついに自分の耳はおかしくなってしまったか。
そろそろ耳鼻科にいこうか。そう考えてしまうほど、今、有り得ない名前を聞いてしまった。
ルカリオ、って。
…流石に自分の子供に、そうつける親はいないだろう。
光宙と書いてピカチュウと名付けた人はいるらしいが、10年後後悔するだろうなぁと思いつつ、はっとして瞼を上げた。
そこは白かった。

正しく言うと…右眼では白い天井が見えた。
左眼で見ているのは、白い布。眼帯だ。
真っ白な天井。毎日綺麗に掃除をしているのか、シミひとつない綺麗な天井。
あれ、おかしいな。自分の家の天井は、もっと汚い。だって、誰も掃除しないから。
それと、空気が違う。
こんな澄んだ空気じゃない。はず。

「っ〜〜〜……」

ここは自分の家ではない。
病院だろうか、と身を起こしてみたが、世界が一瞬眩んだ。
目眩。そして、脱力感に吐き気。なんだか、とてつもない“違和感”を感じ、口元を押さえる。

『あ、起きた』
「気が付いたかい?」

得体のしれない違和感に首を傾げながら、声がした方に視線を向ける。
この部屋から、丁度出て行こうとしたらしく、開いた扉の前にその声の主はいた。

1人は、若い男性。
青年とも言える若いその人は、黒髪に黒目。黒のハイネック。
白い肌によく映えていて、穏やかに微笑んでいる。第一印象は、優男だ。
けれども、浮かべている笑顔は、付け入る隙など見当たらないような完璧なもので、ちっぽけな自分を守るための安っぽい警鐘が、僅かに鳴り響く。
でも、まぁ、その黒目に宿る優しげな炎に安心できたのも事実。
だから、この男性はまだいい。
問題はその横の“生き物”だ。

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