空契 | ナノ
2.夢だと言って (2/5)

────あの、
蒼い生き物はなんだろうか。
オオカミのような、犬のような、生き物。
が、仁王立ちしていて、思わず呼吸を止めて沈黙してしまった。

「…………………………」

『あれ、また寝た』
「え」

布団を頭まで引き上げて、厳戒体勢。OK。沈黙。
外界で腑抜けたような声が聞こえたが、完全に結界(布団)の中に引き篭もることにする。
ちょっと、落ち着いてみよう。
少し落ち着いて、今見たことを整理してみよう。
……今、蒼い狼を見た気がした。しかも、二本足で立っていた気がする。
なんだアレ。なんだアレ。
新種かな。新種の動物かな。……なんで、そんなところに自分はいるのだろう。
駄目だ理解できない。

もう一度布団から顔出してみた。
扉の前で、男性は微笑み、その生き物はただこちらをじっと眺めていた。
目が合った。あの生き物と。紅い目が特徴的。わぁ。やっぱり結界(布団)の中に避難。
なんでだろうか。もしかしてポケモンゲームのやりすぎだろうか。
それとも、ネットで二次元創作とかがっつり嵌ってしまったせいだろうか。
あの生き物が、某勇者の映画に出てくる、ルカリオにしか見えなくて困るのだが。

だとしたらあれか。ルカリオとセットと考えたら、あの隣に居る男の人は、ゲン、だろうか。
鋼鉄島に居て一緒にギンガ団を倒してくれて、揚句の果てにはリオルのタマゴをくれる、あのゲンさんだろうか。
ゲンとルカリオというのは、アレか?
ポケモン? ……ポケモンってアレか?
ゲームフリークさんが造ってるアレか?

「…………。
あのー……」
「うん?
どうかした?」

布団の中から呼び掛けてみたら、彼は返事をくれた。
どうかした? とか………うん、俺の頭どうかしたのかもな!

「すみませんが」
「うん」

「これは夢だ、って言ってください」
「………うん?」

言ってください

言ってくれないと、俺の人生終了する気がする。

「うん」

すると、なにかを悟ってくれたらしい。
彼は素晴らしい笑顔で言いました。

「これは夢じゃないよ」

なるほど分かった。彼はKYなんだな。
なんだろう。今その情報とてもいらない。

とりあえず声高々に叫びたいよ。
真夏の夜の夢だと言ってくれぇえええええええ!
と。今、季節は秋だけど。

「…………あのー………」
「うん」

「………すみませんが…………」
「うん」

意味が分からないことが連発しすぎてて、今自分はとても混乱している。
それを冷静に確認して、深呼吸。
今、自分がどこにいるかとか、どうしてこうなったとか、そういう確認は後でにして、
一番最初に俺が要求すべきなのはこれだ。

「飯、ください……」
「…………うん?」

数秒後、腹の虫が盛大に鳴きわめいた。
ああ、腹減って死にそう。
吐き気はこれが原因かもしれないと思ったが、ぐわんぐわん。
頭の中で何かが渦巻いていて、とっても気持ち悪い。

なんか体、重いし。ぎしぎしと軋む。
なんだか死にそうで、慌てたように走り出したルカリオ(仮)を尻目に、俺はベットの中で沈黙していた。

…………いや寧ろ、
何で生きてんの? 俺。
 

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