空契 | ナノ
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7.ふたりの言い分 (1/5)

   


「うぉおーー!
なんだこれ!? ひっろォ!!?」


街。
とても広い広いミオシティの橋、歩道で俺が叫んだ声は茜色の空に響いた。夕方で、そろそろ暗くなってきたとは言え……人が居ないわけではない。ついで言うと、ポケモンも居ます。
つまり、かなり視線集めているワケである。大声だし、この髪目立つし、眼帯だし。…アイクが冷たい眼を向けて来ながら、少し遠い所にいる。あいつめ、無関係を装う気だな……。
しかし、そんな彼も中々の美形だからお前への方が視線多いけどな。ざまぁ!羨ましいぜ!!

でもなぁ、これはまじめに感動する。ゲームでいつも見ていた景色(ドット絵)が目の前に。そして、そこに立っている自分がいる。
そろそろと顔を撫ぜる風に右眼を細め、空を見上げる。気持ちいい。潮の臭いがする。開放的な感覚。ここに、自分がいる。自分が、存在、している。
波の、音。なんとなく懐かしさのようなものを感じる。あれ、俺、昔海でも行ったことあんのかなー。実は言うと覚えてない。

そんないい加減な感覚よりも、感動が勝る。そんなきらきらと眼を輝かせた俺の気持ち、なんて微塵も理解しない輩が、隣に一人。

「田舎もんかお前」

緑のサラサラ髪を潮風に靡かせ、鼻で笑いながら碧眼を俺に向ける、美形野郎。
彼、アイクは俺の(一応)相棒なんだけど……なんだろうか。あの白眼。
田舎……いや、一応、東京生まれですが。という言葉が喉まで出かけたが、飲み込む。この世界には東京ないので、出身地を東京と言う訳にはいかない。言ったら、俺「は?」って目で見られるよ確実に。
だから、俺が考えた“設定”は、

「……ホウエン地方出身どす」
「………どすって何だ」

アイ君が変なものを見る目で、見て来るがスルー。これからも出身はホウエン地方で通すつもりだが、それには一応意味がある。
ほら…相棒がホウエン地方に生息してる、キモリだろ? そのキモリが、アイクが、ホウエン地方出身だといっているのだから、俺もそれに合わせた方が自然だろう。
…そーいやぁ、ホウエン地方って…九州だっけ? 田舎では、ないはずなんだけど……いや、多分。
でも……アイクは気付いてそうだなぁ…。俺の出身がホウエンじゃないなんて、コト。だって嘘くさそうにこちらを見てくる。……めんどくさそうな顔もしてるから、多分突っ込んでこないから、まぁいっか。

とにかく、これは興奮せずにはいられない。ポケモンファンならば、尚更。
見たことなんて無いほど、大きい図書館。大きく、広い運河。
それを跨ぐ、桟橋。大きくて横に広くて、何人もの人間が歩いていたり、橋の上の方にはペリッパーやキャモメが一休みをしている。
想像以上に大きい、青い屋根のフレンドリーショップ。コンビニより、少し大きいくらい。その隣に位置する、赤い屋根のホテルみたいな、ポケモンセンター。…こちらも、負けずにデカイな…。
そして、多く並ぶ民家やビル。車の数は少なく、どちらかと言えばのどかな方。
異国情緒溢れる、港街。
ゲームと同じ風景なようで、違う風景。ゲームより現実で見た方が多いし大きいし、ていうか街そのものがでかいし。
これ、街の端から端まで行くのどんだけ時間かかるんだよ……という大きさ。それと、図書館が立派。びっくりだな!ホント!! 

とか叫び、アイクに蹴られ、蹴り返し、なんかアイクを見ながら顔を赤くした少年少女の視線を集めながら(青春ていいなぁ)、俺らは一先ず、ポケモンセンター略してポケセンの中へ入って行った。
ターンターンタタターンッ♪(あれね、あれ)(回復ーって感じの音)
ポケセンの中に入った俺は、今度は唖然とした。あ、因みにドアは自動ドア。
言葉を失ったね……一階が広すぎで。その1階にはど広いロビーと、受付があった。
ロビーにはソファーと机が沢山並んでいて、自動販売機や、テレビ電話機も数個並んでいる。テレビ電話も設備。…暇になったら、ゲンさんに電話しようかなぁ。てか、マジデカイな。ドコの高級ホテルのロビーだ。
ほぉぉ、と感嘆の溜息を漏らす俺(アイクは最高にどうでもよさそうだった)の前をピンクの球体、ラッキーさんが歩いていた。暇そうに見えたから・・・俺はラッキーを呼び止め、ポケセンについて色々聞いてみた。

―――ラッキーいわく、
2階はポケモンの治療室。一般人は許可無しでは入れないらしい。
3階は食堂。トレーナーズカードを見せれば食べ放題らしい。
だが、タダメニューは限られていて、大体は有料だ。
4階から5階は宿泊施設。キッチン、ベッド、バスタブ、シャワー、エアコン完備。ワンルームから、もっと広い部屋まで複数ある。因みに、殆どの部屋はトレーナーズカードがあれば、タダ。本当に大きい部屋は少し金がかかるんだそうだ。
そして、ポケセンの裏にはバトルステージが展開されている。そこで自由にポケモンバトルができるんだってさ。

とまぁ、色々説明してくれたラッキーさんに「トレーナーズカードも持ってない新米トレーナーでも泊まれんのか?」と聞いてみると、彼女に手招きされた。そして、俺とアイクは相変わらず人目を集めながら、ラッキーさんに連れられ受付へ。そこには、毎度お馴染みみんなの天使。ジョーイさんが美しく微笑みながらいらっしゃった。ずきゅーんと心を打ちぬかれましたよ。はい。

「ジョーイさん、是非とも結婚しましょう」

と言ってジョーイさんの手を握った俺は、0.1秒後に真横に吹っ飛んだ。一直線に。アイク君に蹴られたんだよ。頭を。一瞬、河とお花畑が見えたぞコノヤロウ。
ぐぉぉお…と悶絶一歩手前の俺。を、アイクは顔色ひとつ変えずに、指差した。

「……あの馬鹿でも泊まれる部屋はあんのか」

やっぱり不機嫌そうな表情のアイクにぶっきらぼうに尋ねらたジョーイさんは、しかし笑顔。笑顔のまま、倒れ込む俺を一瞥。

「新人さんですか?」

笑顔のまま受け答え。って、えぇ?!流しちゃうの?!怪我人スルーしちゃうの?!なぁジョーイさぁあぁぁんー?!

「新人さんなら、トレーナーズカードをお造りしましょうか?」

ジョーイさんはにこりと微笑し尋ねるが、ここまでがアイクの精一杯のコミュニケーションだったらしい。眉間の皺を深くさせ、嫌そうな顔をして俺に、彼は無言で視線を送ってきた。
…いや、無理なら最初っから………ああもういい。

「…あ、お願いしまーす…」

半ば、ヤケになりながら頼むと、ジョーイは微塵も気にしていないよう。

「こちらにどうぞ」

そう言われ、連れていかれた先で渡されたのは、紙。その紙には……名前やら、生年月日やら、出身地やら、住所やら、ポケギアの番号やら、なんやら、が。
名前、レオ。生年月日……ん? 年? …この世界の年ってなんだ。(わかりませんと言ったら、ジョーイさんは年表を出してくれた)(優しい…)
出身地、ホウエン地方、っと。住所は斜線っと。ポケギアなんて持ってねーし……斜線、で…、
そこまで、すらすらと書いて、手を止めた。
俺の視線は、保護者名。

「(あ、どうしようっかな)」

って、たいして困った素振りも見せずにちょっと笑った。
ちょっと信じられないかもしれないけど、俺は当然のように困惑する。

――――どうしよう。
“覚えて”“なんか”“ない”。
手は、止めたまま。止めて、止めて、止め、て、



「───あら、
レオさん……」

書き終わり、ジョーイさんに書類を渡すと、彼女は首を傾げた。その紙に書かれている、保護者名の欄に書かれている斜線と俺を見比べている。「ご両親と…住所は?」と遠慮がちに聞かれて、俺は眉を下げた。
なんか、変な空気になっているのをどこか嘲笑いながら。


「親がどっかで旅してるんッスよー」
「え…」

この様子は悲しそう、というより、恥らっているようにジョーイさんには見えただろう。そう見えるは彼女がおかしいのではない。俺が、悪いのだ。
だって、演技ですもん。

「だから、電絡も取れねーし……今、なにしてんのかも知らないっす。
俺も旅をする予定を作ってたから、家なんてとっくに売っぱらってたし…」
「あらそう……大変ね、レオさん」

ほらきた、同情の、眼。…なんだか罪悪感。
だが俺は無言で微笑むだけ。

「いや、ただの放任主義な家庭なだけですよ」

…なんて、モノは言いようだ。

「そんな親の名前でも、書いといたほうがいいですかね?」

にっと笑いながら問うと、ジョーイさんは少し安心したように首を横に振る。これはただの確認だから、そこまでしなくてもいいらしい。どうやら、この世界では俺みたいな家庭は珍しくないんだとか。
親がいない家庭とか、無いわけではないからそれを心配していたらしいが……、さぁ、アイクはどんな顔をしているのだろう。今彼は、俺の後ろにいたけど、わざわざ振り返って確認するほど興味はない。

───俺の両親は確かに存在している。まぁ、この世界には存在しないけど…。
つまり、住所はともかく、保護者名まで無記名にしなくても良かったのだ。
……それでも、書きたくなかった。認めたくなかった。ただ、それだけの、子供っぽい感情。


覚えてもいない程に、どうせどうでもいい親だったのだ。
記憶喪失などではない。
“どうでも”“いい”から、覚えてなどいないんだ。


バカみたいかな意地を抱えた、子供みたいな俺は、あの嘘ばかりが書かれた紙を持つジョーイさんと共に奥の部屋へ。
そこで、パシャリ。アイクが顔をしかめながら(後に分かったが、ポケセン内の人間の多さにうんざりしていたらしい)眺めている傍で、俺は顔写真を取った。





    

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