空契 | ナノ
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6.伸ばした手 (1/5)

   
鋼鉄島の昼下がりのバトル。
アイクが勝利をつかんだその後、アイクとルカリオの傷を治療していたゲンさんは、ぽつりと「本気、出すつもりはなかったんだけどね」と苦笑して言った。
いわく、最初の内は、俺とアイクの強さを知る為の様子見だったらしい。ある程度戦って、俺が強い方だったらバトルは止める。俺が弱い方だったら、現実の甘さというやつを知らせる為に、問答無用で倒すつもりだったらしい。
しかし、俺の指示やアイクの動きを見て、ついつい本気を出し、熱くなったのだという。

「レオ君は本気に不思議だ」とか言われたけど…、
まぁ、そりゃあ俺だし。俺は変人とかよく言われるし。不思議ともよく言われる。

そして、俺等は昼食を食った。ゲンさんが作ってくれたのは、カルボナーラ。紅茶も入れてくれた。しかも、異常なうまさ。ゲンさんに「嫁に来てほしいですー」って真面目に言ったら「婿ならいいよ?」だとさ。イケメン万歳。
当然俺は「喜んで!!!」と叫んだのだが、横から元気バリバリのアイクとルカリオから飛び蹴りをいただいた。因みに擬人化してたようん。…………殺意が沸きました。

「ぅがぁあああ蜥蜴とヘタレ狼てめぇ等ぁあー!」
「かかって来いこの変態
誰がだぁあー!

「レオ殿の事です」
「こらルカリオ」
「申し訳ございませんゲン様」
どっちに謝ってんだよ!
飛び蹴りされた俺に謝らんかーっ!」

「てめぇに謝る体力自体が無駄だ」
「この童顔が!」
「………誰が童顔だ」
「レオ君、アイ君、落ち着いて」

「…誰がアイく、」
「ほら、ヒッヒーフー」
いや、聞けし
しかもゲンさんそれ違う
「あれ、違ったっけ」
「ゲン様、それは産まれる方です」

「まぁ、いずれにしても」
ガシッ

「ゲンさん止めないでくれぇ!」
「いやいや止めさせていただくよ」

リビングで暴れる俺を、ゲンさんは相変わらずの爽やか笑顔で、後ろ羽交い締めしていました。
それを眺めて、アイクは鼻で笑い、ルカリオはニコニコ笑っていた。
この後、俺がふたりのポケモンに一発殴ったのは言うまでもない。





ある程度騒いだ俺は、外に出て、海を眺めていた。白いバックを肩にかけ、もう今からでも旅立てる。
今俺が着ている黒コートは、ゲンさんがくれた。肩出しのその格好だと、寒いだろうから、と。そう言って、ゲンさんは俺の頭を撫でて優しく笑った。その様子を見て、ルカリオが何だか楽しそうに、嬉しそうにしていて、アイクは舌打ちをし、俺を蹴ってきた。うん、アイ君。俺なんかしたかな?
そこからやっぱり始まる喧嘩。それを(笑いながら)止めようとするゲンさんと、楽しそうに傍観しているルカリオ。
あー懐かしいなって、思ったなぁ…。ここ最近………家から出ること少なかったし、人と、話すのも少なかったし。
…喧嘩なんて…面倒臭いは面倒臭いけど……なんでだろうなぁ…。

「(悪く、ねぇかな…)」

理由は何となく、分かっていた。アイク、ルカリオ、ゲンさんは、あの世界の人間とは、違うからだ。
────それと比例するように俺が今見ている、この海はこんなにも美しい。
あの世界、俺が居た平々凡々の世界は、モノクロにしか見えなかった。こんなにも輝いていなかった。…帰りたくないなぁ、と微塵ぐらい、思った。
けど、どうでもいい。
この世界なんて、どうでもいい。
俺が居た世界も、ぶっちゃけ、どうでもいいけど………、
どうでもよくない、大切な人がいた。

違うんだよ。
“この世界”と“あの世界”は、違う。
俺はこの素晴らしい世界の住民じゃないし、
あの世界には“親友”が、いる。

だから、俺に与えられる道は、帰ることだけ。帰らなければいけない。

力強く頷いて、清々しいあの夕日に向かって拳を突き上げた。
俺は、高々と宣言する。

「俺ぁぜってぇ、帰ってやるよ」

迷いなんて、
曇りなんて、一切ない。
俺の右眼は空に浮かぶ太陽を、見据えていた。
その時の俺、レオは、無理のない笑顔を、どこかの誰かに向けていたんだ。

因みに、隣にいたアイ君。俺が突然ガッツボーズして叫んだから、かなり引いてたよ。うん。
気にしたら負け。     
  

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