空契 | ナノ
6.伸ばした手 (3/5)

 
ゲンと会う事は、きっと、もうないだろう。
だから「さようなら」と言った。またね、なんて言えない。
実際、その通りだと思っていたから、

なのに、さ。


「―――レオ!!」
「え?」

徐々に島から離れていく。俺は船の椅子に落ち着こうとしたのだが、
海を挟んだ向こうから聞こえた声に頬が引き攣った。顔を上げて、10メートルぐらい離れたそちらに視線を送る。
あの島では、ゲンさんが手をこちらに振っていた。手にしているのは・・・なんだろう? と首を傾げた時だ。彼は腕を振り上げ、手にしている物を投げた。
しかも、こっちに。

「うえぇっ!!?」

水面を跨いで、落ちてきたそれを俺は反射的にキャッチ。真っ直ぐと投げられたのは、プラスチックでできた透明のカプセルだった・・・・って、ゲンさん、コントロール地味に上手い。見ると、カプセルの中には白い紙切れが入っていた。
訝しむ。前に座るアイクと目が合って、どうしよっかと目線会議。をしようと思ったが、流石にアイクとのシンクロ失敗。彼は、勝手にしろと言わんばかりの舌打ちを一回すると顔を背ける。・・・このやろー・・・。
カプセルを開いて、紙切れを取り出した俺は一番最初に、そのカプセルをアイクに投げ付けた。避けられたけどなっ。

「(ったく、あいつの反射神経どうなってんだ)
えーと、なになに・・・?」

紙を開く。そこに並ぶ殴り掛かれたような数字は、おそらく何かの電話番号だろうか。
視線を上げる。と、ゲンと目が合った。離れていく鋼鉄島で、ゲンさんは大きく手を振りながら、叫ぶように言った。

「それ! 俺の家の電話番号だから!
だから!
何かあったら電話、してね!
───絶対!!」
「、────」

「絶対だよ」とゲンさんは笑いながら、念を押した。絶対……。
キョトンと目を点にして、俺は口の中で呟く。…せっかく、再会フラグをへし折ったのになぁ……。
……絶対、か。
ルカリオが柔らかく笑いながら、手を振っていた。それから、彼の視線は、俺からアイクへ。
アイクは眉間に皺を刻みながら・・・でも、満更ではない様子で手を小さく振りかえしていた。直ぐにじぃーっと俺に見詰められていた事に気付いたようで、アイクは顔を真っ赤にして舌打ち。背けやがった。いやぁ可愛いな、うん。それが面白いと感じて、俺は吹き出す。照れ隠しだろうエナボーがアイクから飛んで来て避けたら、
己の手から、電話番号が書かれているその紙が飛んで行きそうになった。落としてしまわないように、離してしまわないように、
咄嗟に紙を掴み直した自分がいて、苦笑が漏れた。
───何だかんだ言って、
俺は人との繋がりが────嫌ではなかったのか。

ああ、本当に。
ゲンさんは不思議だ。こんなにも、あっさりと俺の心に入り込んできた。
それを不快に思うこともない自分が不思議だ。
俺は苦笑から微笑みに表情を変え、再び鋼鉄島へと視線を戻す。
もう、島が、ゲンさんが、ルカリオが、遠くて小さい。結構、離れちまったな。
だから、俺は深く息を吸い込んで、吸い込んで、吸い込ん、で・・・、

「いつか、
いつかぜってぇ電話する!!!」

後ろで眼を見張っているアイクは無視。
風の声に、船の声に、波の声に、負けないように、俺は叫ぶ。

「ありがとうございました……!!」

心の底から溢れる感情は、確かに“感謝”だった。
怒鳴るように叫んだ“感謝”の言葉。

さて、
この声は、ゲンさんに聞こえただろうか―――?
   

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