空契 | ナノ
3.おれ+キミ (2/6)


「2…4…6…8…10…12…14…16…18……20コか」


俺、レオがゲンさんの家から出て来たのは、彼から渡された白い鞄の中身の確認の為だ。
家から少し歩いた、街灯がある道を少し外れた所。木に寄り掛かり、座って鞄に入っていたものを全て出してみた。
この白い肩掛けバッグ自体は自分の物だが…中身の、モンスターボール20コと、指無し手袋。俺のではない。あと、眼帯の代え発見。
少しほっとした。代えないと困るしな!
……入れてくれた人、誰だろ…。…………親切だなぁ…。

そして───俺が着ている服は、長袖の…黒に近い灰色の、肩出しの服。
袖が着物のそれみたく、長くてブカブカだがサイズは一応合っている。
その上に、ノースリーブみたいで、首の…襟?が、長い……黒と水色の服。
ズボンは、黒の短パン。灰色のハイソックス。
それと、黒い短いブーツ。全体的に黒でまとめられているものの、決して地味ではない格好だ。
こんな服も、こんなズボンも、靴も、俺は持ってなかった。
持ってるのはジャージとか、Tシャツとか、もっとダサいヤツ。
もともとファッションに興味はなかったから……。

……トリップの特権?だと、思うけど、どうなんだろう。
ゲンさんが上に着ていた、ノースリーブの服だけ脱がしてくれたらしく、
目が覚めたとき、俺は肩出しの服とズボンという格好だったのだが……。
他の服は土で汚れていたらしく「洗っておいたよ」と渡された。(ゲンさんも親切だよなぁ)
(因みに、俺のつけている眼帯は取らないでいてくれた、らしい)
(理由を聞くと「何となく」って笑いながら答えられて困った)(なにそれ)

それから、首に下がっているのは水色の小さな笛のペンダント。
小さな、青いストーンもついていて、これだけは間違えなく俺の、だ。無くしてなくて、良かった。
ペンダントを眺め、次に俺はモンスターボールに視線を向けた。
20コのボール。
ゲンさんいわく、空らしい。………1つを抜いて。

恐る恐るといった風に一つ、モンスターボールを目の高さまで持ち上げた。
ポケモンが、入ってるんだってさ。
しかし、俺は身に覚えがない。あるはずねーだろ。
でも……あれだ。王道ならポケモンが入ってて、相棒になるんだよな。うん。

俺にその気はないけどね。

「さぁて…、」

ぽちっとモンスターボールのボタンを押して、

「とりあえず、
出てこいっ、と!」

ボールを空中へほうり投げた。
月光に照らされて、キラリと輝く───。
その直後、パカンと開いたボールは光を放った。
アニメでよく見る、アレだ。
返って来たボールを難なくキャッチしながら、俺は瞬きをせずに目の前の光を見詰め───現れたのは、緑と夜空色、

「キモリか!?」

なんと、可愛い可愛い小さなキモリが出て来た。
色々予想してみたものの……なるほど、そうきたか……。
ここがシンオウ地方みたいだから、てっきりシンオウの御三家が来ると思ったんだけど、
てゆーか、なにこれ可愛い。バカ可愛い。惚れる。可愛すぎる。
やっぱキモリはこうでないと、

『………あ゙?』

……あれ?
……………前言撤回。睨んで来た彼は、かなぁり怖かったです。
なんか、睨みだけで人殺せそうな目つきだ。
おっかしいなー、眼はパッチリと大きくて可愛いのに……って、え?

そこでやっと俺は違和感を覚えた。
夜の闇で見えづらいから気付かなかった。
でも逆に言うと、見えづらかったから気付けたのかも。
だって、キモリの“普通”の黄色い目なら目立つし。
でも、今俺の前にいるこのキモリの両目は闇に紛れるよう。

───眼が、キモリの眼が……碧い
首を傾げる。
もう一度確かめのため、言う。普通、キモリの瞳は黄色である。
しかし、彼の瞳は深い碧。夜空の碧。

いや、まぁ、ね。
そんなの関係無しに、

「かわいー…」

これは間違えなかった。
そりゃもう、抱き着きたくなるぐらい。

『…は?』

寧ろ抱き着いていいかなと本気で考え始めた時、キモリは呆けたような顔でそう零していた。
可愛い大きな眼を丸めて、俺をまじまじと見詰めてくる。
『こいつ、頭大丈夫か』って感じで。なんでさ。
まぁ、トリップとかした時点で俺って大丈夫じゃねーと思うわ。

「に、しても」と俺は自分が手にしてる紅白のボールと、そこに居るキモリを見比べた。
このキモリは、このモンスターボールに入っていた。
このモンスターボールは、俺の鞄に入っていた。

「………なぁ、君、」
『…………』

返ってきたのは無言。
ああそう。無言か。無言…………。
視線はちゃんとこちらに向いていたのが、せめてもの救いか。
 

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