20.求めた結果の先 (3/6)
204番道路とソノオタウンを繋ぐ“荒れた抜け道”と呼ばれる洞窟は、その名の通り荒れ果てていた。岩は無数転がり、突き出て、あまりにも酷くて人が来なくて更に荒れる。そんな洞窟の他にソノオタウンに行く道は他にもあるらしいが、近道なのはこの洞窟だ。
俺は急いでいる。だから、ジム戦後なのに元気バリバリな擬人化状態のアイクにおぶってもらいながらも、この洞窟を選んで進んだのだ。
因みにクロガネシティを出たのは昼前で、この洞窟に入った頃には日が沈んでいた。
思っていた以上にクロガネシティからの距離はあり、休みなしで普通に歩いたとしても人間では1日を易々と越してしまう。
だが流石ジュプトルであるアイクだ。
体力も素早さも申し分なく、1回も1瞬も休むことなくここまで来れた。ダイゴの件も含めて本当に助かる。
無理させている感はひしひしと感じるが、今は仕方ないと自分に言い聞かせながら、俺は振動に揺すぶられていた。
の、だ、が、
ゼェ ハァ ゼェ ハァ ゼェ ハァ…
「………っ…はぁ…、………っ…」「………」
洞窟から脱出、しばらく走った先まで来て羽音が遠ざかったのを確認すると、アイクは俺を草むらに下ろすと脱力したように仰向きで倒れ込んだ。
包まれたアイクの頬と額をかなりの雫が伝っている。はぁ、と浅い呼吸は冷えた空気で白くなり、霧散。肩を上下させながら腕で汗を拭うアイクを見ながら、俺は言葉を探していた。
洞窟を出てもズバットの群はしばらく追って来たものの、やはり町が近いからか、やがて諦めて帰っていった。
そして俺らはその町の入り口付近まで来ている。来ていて、アイクが力尽きたのであった。
そりゃそうか。クロガネシティから俺を抱えたまま休まず走りっぱなしでここまで来た上に、荒れたあの洞窟でズバットに追われながら俺を守ってくれたのだから。……ちょっと怖かっただなんて、言わないでおくけど、
「…アイク?
そのー………大丈夫かい?」
「…………………どれを…どう……見れ…ば………大丈夫に…、」「………俺、やっぱり疫病神かなんか?」
真面目にそう思えてきた。
だって、俺この世界に来てからいいこと1つもなかったしなぁ。今年は厄年か?
「……悪ぃな。
俺が色んなもんに追われてるせいで」
ダイゴとかズバットとか時間とか、
「……、別、に………それはあいつらが悪い」ダイゴとかズバットとか。
「…………ダイゴ……は置いといて、
ズバットはどうなんだらうな?」
「…あのとき………全滅、させたのは、俺と鼠とナミ、だ。
しかも、木の実……置いていった…し、な………てめぇ、は」「いや、指示したのは俺だし。
木の実は………あまりものだし。うん」
いや、あまりものってのは黙っておくべきだったか。
「…はぁ………っ…そもそも、先に仕掛けたのは、あいつらだろ…」「………………悪ィ」
「うるせぇ……っ…黙れクソ…」「………(…照れ隠し……と思っていいのか? これ)」
顔は汗びっしょりで本気に疲れているのか目付きがいつもより険しく、息と比例するように言葉も荒い。いつもより僅かに悪い。
……あの火照ってる頬は動いたからか?…………照れて…………うーん………微妙。
ま、いいか。俺も、アイク程じゃないけど確かに疲れたし。眠いし。忘れかけた傷が痛むし。
俺もアイクに習って隣に、背から草むらに落ちて空を仰いだ。キラキラと星がぱらぱらと散らばっていて、闇夜を柔らかく照らす。今日は満月か。眩しい。
「……また夜になっちまったなぁ………」
最近、夜に行動する割合が高い気がする。
あー体の節々が痛い。でも、まだがんばれる、かなぁ…。
「…………アイク。
戻って、いーぞー」
「…いら、ねぇ…」「いや、お前ぼろぼろじゃん」
バックからボールを引っ張り出して突き出したら、無造作に手を払われた。あぶねぇボール落とすトコだった。
むすっとするアイクにこれと言って目立つ怪我はない。
ただ少々、ズバットに引っ掻けられた傷があるぐらいだ。
俺は白い息を吐いて上半身のみを起こし、バックから出した道具で応急措置をしていった。
血を拭いて、消毒。それから薬塗って、ガーゼで止めてっと。同じ事を、ボールから出したナミにもした。ナミがおそらく一番傷が深いだろう。
ラムパルド相手によく頑張ったよな。頭を撫でて笑うと、ナミも笑った。
「ありがとう」と優しく、柔らかく微笑まれたそれは大人っぽくて、羨まい。
俺なんかと比べものになんないくらい綺麗で可愛くて、純粋な笑顔。冷たい空気がかなり緩んだ瞬間だった。
『で、
これからどうしよっかぁ?』「んー…」
ナミに続きユウをボールから出してから、俺等はとりあえずソノオタウンに踏み入れた。
その時、俺等が真夜中にも関わらず「やってまいりましたー、in ソノオタウン」と叫んだのは言わずもがな。
──さきほこる はなのかおりに つつまれた
はなを あいする ひとびとの まち。
なるほど、確かになと納得して、少し驚いた。
ソノオタウンには一面花々が咲き誇り、冷たい風に身を寄せ合いながらふわりふわりと揺れていた。こんな寒くても咲くんだ、花って。昼で、更に春ならもっと綺麗なんだろうなと思いながら、日とっ子1人いない真夜中の花畑をのんびり歩いていた。因みに、俺はまたアイクにおぶられていた。大丈夫だと言ったのだが、無理矢理。
ナミは歩けるが重症の怪我人だし、ユウは普通に考えて不可能。だからアイクになったのだが………俺とユウは納得していない。
アイクの頭の上に乗りながら
『はぁーやーくーしーんーかーしーたーいー』と愚痴っている。もはやそれは口癖化している。
………でも無理なものは無理な気が………。
だってピカチュウへの進化条件は─────、
「泊まる場所はどうすんだよ」………そうだ。
今最大の悩みはアイクが言った通りの、それだった。
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