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不完全結合


「付き合ってほしいんだけど」
「……は?」

 それは、あまりにも突然だった。
 昔馴染み兼仕事仲間であるイルミから久しぶりに会おうと誘われ、適当に入ったカフェでコーヒーを飲みながら近況報告をしていた最中のこと。すさまじく突飛な発言に、一瞬自分の耳がおかしくなったかと思った。

「えーと、どういうこと?」
「結婚を前提に付き合ってほしいんだけど」

 聞き返したら、余計な一言まで付け加えて返された。どうやら聞き間違いではないらしい。
 ぶっ飛んだ発言をしながらもイルミは常と変わらず無表情のままで、その落差にただただ困惑する。

(結婚って、イルミと? え、ていうかそもそもイルミって……)

「イルミ、私のこと好きだったの?」
「いや、別に」
「ええぇ……」

 きっぱり否定されて、ますますわけがわからなくなる。じゃあなんでいきなりそんなことを言い出したのか。私の混乱をよそに、イルミは淡々と話を続ける。

「オレ、他人を好きになる感覚ってよく分からないんだよね。オレの愛情って全部キルに注いじゃってるし」
「あー、でしょうね」

 私は思わず遠い目をした。そうだ、こいつはそういう奴だ。イルミの中の優先順位はいつだってキルアが一番上で、それ以外はすべて二の次三の次。そんなの分かり切ってたはずなのに「私のこと好きだったの?」なんて聞いてしまった自分が恥ずかしくなる。

「だけどナマエのことはそれなりに気に入ってるし、付き合ってよ」
「嫌です」

 色々と言ってやりたいことはあるけど、まずは結論から伝えた。ここで「ハイ付き合います!」と答える人がいるなら見てみたいものだ。

「うん、そう言われると思った」

 速攻でフラれたというのにイルミは気にした様子もなくそう言った。言葉通り、私の返答は予想していたものだったのだろう。

「まぁでもナマエの意思とかどうでもいいんだよね。オレがそうしたいから」
「あのねぇ……」

 あまりの身勝手さに呆れてしまう。こういうところは本当に昔っから変わらない。

(よし、一旦落ち着こう)

 深呼吸して、改めて目の前の男を見据える。相変わらず何を考えているのか分からない顔つきだ。それでもイルミが目的のためなら手段を選ばない男だということだけは痛いほど知っている。このまま放っておいたらきっと無理矢理にでも話を進められてしまうに違いない。そうなったら死ぬほど面倒なことになるのは目に見えている。
 まずはイルミの真意を探る必要があると思い直した私は、慎重に口を開いた。

「あのさ、そもそもどうしてそんな話になったの? 急に結婚だなんて……。またキキョウさんにお見合いの話でも持ちかけられた?」
「うん。きっかけはそう。というかその見合い相手の中から婚約したやつがいたんだよね。もう死んだけど」
「は? え、ちょっと話についていけないんだけど」
「母さんがうるさいから試しに一人と婚約してみたんだよ。それで婚約期間中はうちに住まわせてたんだけど、うっかり毒入りの料理食べさせちゃったんだよね。ほんとうっかり。まさか死ぬとは思わなくてさ。ま、そんな弱いやつを嫁がせるわけにはいかないから結果的にはよかったけど」

 よくない。全然よくないぞ。イルミが淡々と語る内容があまりに衝撃的で、開いた口が塞がらない。

「でさ、やっぱりオレの結婚相手はうちでも生きていけるくらい強くないとダメなんだって気づいたんだよね。それに次に家を継ぐのはキルだけど、キルの後をキルの子供が継ぐとは限らないし、だったら血筋を残すためにもオレも早く子供を作った方がいいかなと思って。それで、どうせ作るなら優れた遺伝子を掛け合わせた方がいいかと思ってさ。そういう意味だとナマエは適任だろ? 母さんにも気に入られてるしね」

 あまりにも身勝手でめちゃくちゃな理論展開に、私ただただ絶句した。

(こいつ……! この上なく最低なこと言ってんな!!)

 私がドン引きしていることにも気づかず、イルミはさらなる爆弾発言を投下する。

「だから体だけの関係でもいいよ。子供さえ産んでくれれば」
「お断りだっ!!」

 出せる限りの大声でそう叫んで、イルミの顔面にコーヒーをぶちまけた。


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