書物と書類、それによくわからない置物が乱雑する部屋を見て翠花は大仰な溜め息を一つ吐き出した。
確か二、三日前に捲簾が生き埋めになっていた天蓬を助け出して、半日費やして整理をしたと思ったのだが…私の見間違いだったのだろうか。




「捲簾も苦労が耐えない訳ね…」




本来なら、そういう事は付き合っている私がすべきなのかもしれないけれど、こればっかりは私と出会う前からの“習慣”だから仕方ないと思う。
それに捲簾は本当に整理上手だから、何となく任せておいても大丈夫かなーと思っている。
でも最近、そんな私達を見て周りは史上最悪の三角関係だとか泥沼だとか囁いているらしいが、何処をどう見たらそうなるのか…イマイチよくわからない。

世話好きな彼の顔を思いだしながら、部屋をぐるっと見回して主を探す
どうせまた本に熱中してるに決まってるんだ
私の知らない事、歴史やその他いろいろと…まるで無邪気な子供みたいに教えてくれる彼は好きだけれど、反面で本の虫のままこうして約束も忘れられている(多分)のは正直腹が立つ




「天蓬!」
「…はい?」




だから、私は部屋に踏み入ると、つい語気を荒げて彼が居るだろう本棚の辺りに声をかけたのだが…
予想した返答は、何故か私の真後ろから聞こえて来たのだった。

まさか、真後ろから声がするなんて思ってなかったから私は心底驚いて、慌てて後ろを振り返った。
そこには何時もの服装に本と団扇を片手に肩からタオルを引っ掛けて、今まさにお風呂上がりですと言わんばかりの天蓬が立っていた。




「お、お風呂に…入ってたの?」
「ええ、今日は翠花が来ると言ってましたからね」
「……そ、う」
「でも本を持って入ったらついつい熱中しちゃいまして、のぼせそうになりましたよ」




あははと笑った彼が一冊のタイトルも書かれていない本を机に置いた。
また本…
一瞬、ほんの一瞬だけ、約束をちゃんと覚えていてくれた事で浮上した気持ちが萎んで行くのを感じる。
何だか一瞬味わった幸福感が嘘みたい…私は天蓬の言葉に俯いて、ただ小さく『そうなの』と呟いた




「翠花……どうかしましたか?」
「なんでもないわ」




近づいて、私に触れようとした天蓬からスッと身を引く
ここの所、下界への出陣だとか雑務だとかが重なって全く会えなかった。
ずっと会いたくて会いたくて仕方なくて、居ないとわかってても部屋の前まで来たりなんてバカな事までしてたのに…今は会わなければよかったと心が叫ぶ

このままだときっと、私は自分だけじゃなくて天蓬も傷つけてしまいそうで…
だから『今日は少し体調が悪いみたい』と呟いて、私は開けっ放しだった入り口の扉へと踵を返した。





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