まるで頭を殴られたみたいだった
髪に触れようと伸ばした手は寸前で空を切って、あまつさえ彼女は僕にこんな事を言った




「今日は少し体調が悪いみたい…だから、ごめんなさい」




振り返る事もなく、彼女が遠ざかって行く。
そんな後ろ姿を眺めながら、もし今引き止めなければ永遠に会えなくなるんじゃないか…なんて思いが一瞬頭を過ぎった。
でも、彼女は体調が悪いと言った…本当に体調が良くないんだとしたら、どうする?
そう冷静に問う自分が居る反面で、身体は既に動いていた。

閉まりかけた扉を跳ね開けると、翠花の腕を掴んで引き寄せた。
ふわりと、桜の花の香りがして胸がギュッと詰まる
腕の中に収まった彼女は、驚いている様で戸惑った風に僕の名前を呼ぶ。
怒られるだろうか…そう思いながら、恐る恐る抱きしめていた腕を緩めると、視界に入ったのは、真っ赤な顔で困惑した様に僕を見上げる彼女だった




「天…蓬…?」
「―――…ッ」




くらり。
視界が霞む。
前々から薄々カンづいてはいたけれど、どうやら僕は翠花の事となると頭より身体が先に反応するらしい…それに第一、彼女のこの表情は反則だ。
もうどうにも自制が効きそうになくて、噛みつく様に彼女の唇を奪えば、少し苦しそうに呻いたけれど拒絶はされなかった。
そのまま、額や瞼や頬に次々とキスを落としていく。
けれどそれが首筋から着物を崩して胸元に達した時、遂に翠花が強く肩を押し返した。




「てん、ぽ…此処、廊下…ッ」
「…ああ、そうでしたね。」




何かと思えばそんな事。
確かに僕は半分室内だが、翠花は殆ど廊下だ。
僕は翠花の胸元に口づけたまま腰を引き寄せると、身体を反転させて彼女を室内へと連れ戻した。
足元で本の山のが崩れたのかドサッという音がしたが、今はそんな事にかまっている暇はない。
白い蝋の様な肌に赤い華を咲かせれば、翠花はピクンと身体を震わせてから『だめ』と首を振った




「今度はなんですか?」
「ドア、閉め…」
「まったく…」




注文の多い人ですねぇ、なんて文句を言ってみるが口元はカナリ緩んでいる。
それにしても、一々扉を閉めに戻るのも面倒臭い…
さっき閉めるべきだったかと少し後悔しかけた時だった。
廊下をスッと横切った見慣れた隊服にハッとして、慌てて声をかけると彼はその声が聞こえたらしく、律儀にも戻って来てくれた。
僕は翠花を見えない様に胸に抱いたままで、ちょっと悪いけど、そこの扉閉めて行って貰えますかと普段と変わらない声音で告げる。
相手はと言うと、得に気にした様子もなく『わかりました』と返答をしてパタンと扉を閉めてくれた。




「これで文句はありませんか?」
「い、今の見られたんじゃ…」
「大丈夫ですよ、僕がちゃんと見えない様に盾になってましたから ――でも、まぁ」
「?」
「流石に足元まで隠せませんから、密会中だというのは気づかれたでしょうけどね?」
「な……わわッ」




でもそれも今更でしょう?と笑うと、僕は翠花を担ぎ上げる。
本当はベッドへ連れて行ってあげたい所だけど、生憎隣は此処より酷い有り様だ。
だから、ベッド代わりにソファーへ彼女を寝かせると、ゆっくりと覆い被さった。

困った様な、羞恥を帯びた顔がジッと此方を見る。
それを見た僕は、ゆっくりと唇の端を持ち上げて言った。




「手加減なんか出来ませんから…覚悟して下さいねv




その翌日、緊急に下界へ討伐の命が降りた天界西方軍第一小隊の元帥は、何故かしきりに背中ばかり気にしていて
心配になった大将がどうかしたのかと尋ねると、少しだけ眉を下げてこう言ったと言う。





(いえ、だだ気性の荒いネコを一匹、飼ってるもんで)
(ああ、なるほどな)


お題:レイラの初恋



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