【8】VR式更生技術のススメ

-ウソとホンネと希望の詰め合わせ-


 母親の記憶はないが、ないからこそ悲観的な気分にもなれない。
 あったものがないと感じると心が痛むが、実感がないせいで、ないと教えられても何も感じない。

 酷い話だが、魔獣から取り出した肉片を気持ちが悪いと思った。
 ぐちゃぐちゃになってしまった人間を見せつけられたことへの嫌悪感があった。
 恐怖よりも魔獣を倒したという高揚感があったから藍色の髪の毛や形を残した腕に「うわっ」と声を上げた。
 悲しみや不甲斐なさよりもホラーショーでゾンビに迫られている子供の心境だ。何だか嫌だと思うだけで、重々しい感情じゃない。

 ルイから母親についての情報を教えられても他人事のように感じる。

 それも、魔獣を討伐する際、俺は感情の一部が麻痺していたのかもしれない。そうでもなければ、立ち向かえない。無謀だと理解しながら突き進んだのだ。脳内麻薬がえぐいことになっていた可能性は十分にあり得る。

 母親のことを考えるといつも魔獣の腹から取り出された時のテレビではモザイクをかけられる状態をぼんやりと思い出して申し訳なくなる。
 助けられなかったことの謝罪ではなく、記憶にとどめておきたくない記憶あつかいをして申し訳ない。

 ルイによって普通の人間の体に作り戻されても薄目でしか見れなかった。
 グロいものという印象がどうしても残っていて、あまり母親のことを考えたりしない。これは逆に考えなくていい理由づけとして衝撃映像を使っているのかもしれない。

 思い出すことはない失われた記憶を実感してしまうと人はストレスを感じるという。
 痴呆の人が忘れっぽいと言われ続けるとストレスを受けて物忘れが激しくなるという。忘れないように訓練するのは大切だが、忘れていること自体を考えないことがストレスを軽減するという。

 無意識に自分の心を守るために確かに居た自分を産んだ母親のことを考えないようにしてしまうのは、ひどい状態だ。

 VR内で見ていたクライネルト家過保護ギャグのような時期が俺にもあったようだが、実感は湧かない。
 あれは妄想上の創作物というよりは、現実にあった事実の焼き直しや別の側面から描いだものなのだろう。少なくとも母の記憶のあるルイからの情報を参照して描かれた小ネタ漫画やSSのはずだ。

 母がいるだけでクライネルト家の空気が明るくなるのは、男たちの不甲斐なさなのか、俺の立ち位置が悪いのか。

 記憶があるルイからすれば、世界的に存在を薄まらせた俺の母への申し訳なさがあるのは仕方がない。これに関してはルイ自身しか罪を認識できないのだから開き直られても困る。だが、取り返しがつかないのだから俺は責める気はない。

 俺以外の他人の反応を含めて考えれば、魔法というより新しいルールを作り上げたという言い方が正しい。世界の法則が書き換えられる能力と断言してしまうと問題かもしれないが、そういった類のものだと俺は推測している。

 望んだ能力を得られるのも世界の根本的なシステムにコンタクトを取ったり、書き換え作業をしているのだと思えば納得ができる。

 ルイと一緒に居るときにフードを被ると俺が俺だと認識されない。
 これは空が青いのはどうしてかと質問するような子供でもなければ、違和感自体に気づかない。
 誰もが空の青さの理由を科学的に証明しなくても不満なく日々を過ごしている。空は空。青は青。子供と学者以外は見上げた先の空が青いことに疑問に持ったりしない。
 王城の中でフードを被って次期国王陛下の隣を歩くなんて、不遜なことをしていても誰も気に留めない。俺の顔をさらせないと思って、フードを被ってみたのだが、逆に怪しくなった。

 けれど、誰もが何も疑問に思わずルイに挨拶して去っていく。

 俺が隣にいること自体は理解していても不審者ともクヌート・クライネルトとも思われない。
 腐った俺の脳は一瞬で、フードを被った同士だとキスをしても気にされないのだと閃いた。二次創作の一枚絵でありそうなシチュエーションをスパンと弾きだした。
 次の瞬間、自分の考えに身悶える。
 外でキスをしたいという思考が恥ずかしいし、当たり前に自分とルイがキスをすることを考えたことも恥ずかしい。
 未だに女子たちとの言い合いの余波が俺を苛んでいる。
 ハンナに女子攻めの素晴らしさを説かれて「うるせー、どう考えてもルイクヌだろ!」と返した自分を土に埋めたい。埋めたはずだ。あれはなかったことにした。

 姫巫女のフィオナが「公式ありがとうございます」と言っていたが、あれはクヌートとしてではなく、クヌート・クライネルトの幸せを考える会の人間としての意見だ。

 VRの主人格も今の俺もどちらも俺であることは間違いないが、自分が自分を大切にしていると認めるのが苦痛を伴う。
 単純に恥ずかしいのではなく、いろいろな感情が邪魔をする。
 これはルイの中にある罪の意識と似ているのかもしれない。
 ただ、冊子として読んだ内容よりもルイの感情は複雑だ。人の気持ちは空模様と同じで、雲一つない晴れかと思えば何故か雨が降る。理由は解明できたとしても人間が手綱を握って操作するのは難しい。

 ルイは欲張りではない。何もかもを手からこぼれ落ちないようにつかんで生きていく人間じゃない。それは俺の役割だ。
 全てを捨てても俺をとるとバカげたことを言いそうだから、それはやめろと訴えていかなければならない。
 あるいは、何もかもをつかもうと手を伸ばす、強欲な俺を離さないルイもやはり欲張りなのかもしれない。
 横を見ると綺麗な顔に憂いを滲ませて、溜め息を吐くルイがいる。

「国王からの呼び出しとかブッチしたい」
「お前って微妙に単語選択古いよな」
「ドタキャン?」
「……それも死語らしいけど、他ってどんな言葉があるんだろう」

 勇者語録はVRによって大体が理解できるようになったとはいえ、あちらの世界で暮らしているわけではないので、言葉の移り変わりへのツッコミは俺の先祖を参考にしている。

「勇者語録はどうでもいいよ。くーも難しく考えない」

 本当にどうでも良さそうに言うので多少、ひっかかる。

「お前ってさ、勇者を目の敵にしてるところあるよな。嫌いなわけ」
「好きな人が俺よりも夢中になってるものとか、好きになる要素ある? 俺はないと思うよ」
「そうか? 俺は好きな人の好きなものは大体好きだ」

 勇者が好きだと記録が残っているカレーなんかは美味しいと思う。
 ルイは確か、麻婆豆腐のほうが好きだった。
 辛いものと言っても辛さの種類が違うので、麻婆豆腐は食べていると涙目になる。おいしいのだが、人前では食べにくい。

「くーは本当素直だよねぇ。くーは俺を好きで、俺が好きなくーのこともくーは好き。わかる。本当わかる。くーは本当かわいい」

 ひとり、うんうんと頷くルイにわけがわからなくなる。

「急に変な空気になるのやめろよ? バカっぽく見えるぞ?」

 手を握って振り回してくるルイの子供っぽさに呆れる。
 人が周りにいると美形オーラが目に痛いが、俺に向ける表情は茶目っ気がある。
 これはこれで、俺専用という感じで見ていて照れる。
 今までずっと強がっていた。隠し事をしていた。
 呪いを受けているだけじゃなくて、自分を偽って、背伸びして、肩ひじを張っていた。勇者の子孫として、正しく振る舞わなければならないと無駄にルイと張り合っていた。
 不自然な格好は体が痛くて、長くは続かない。
 そんなことをルイの昔から変わらない態度に教えられている気がした。

 ルイの隣はいつだって居心地がいい。

 俺がどれだけ尖っていて、自分も他人も傷つける言動をしたとしてもルイは傷つかず、離れず、ひるまない。
 ルイと手を繋いでいる自分の姿が自然だというのは、逆に不自然極まりないのだが、主観と客観の両方の満足感がある。
 いわゆる、俺の中にあるルイクヌ好きの血だ。
 他人から植えつけられた思想ではなく、俺の中で自然発生した考えだ。
 だからこそ、恥ずかしい。
 何もかもを取り払って、自分の幸せを考えたら、ルイを選んでしまうと気づかされて恥ずかしい。
 自分の軽率な行動への罰がないことの罪悪感を口にすれば、ルイを追いつめることになるのなら、そこは棚上げしてしまっていい。
 元々、ルイを暗殺することは無理だし、ルイが見捨てることだってきっと出来ない。
 斜め読みした冊子の中身を思い出す。

 ルイ・アーレンス・エーベルハルトがクヌート・クライネルトを見捨てたりしない理由が分かりやすい形で説明されている。

 VRに参加しなくても読める二次創作など恐ろしすぎる。
 そもそも二次創作や実際の人間のフィクションなどという概念がこの世界にはない。
 しかも、あれは回顧録や私小説と言われれば多少の脚色も含めて納得できるだろうから、抜け目ない。
 完全に有り得ない創作物ではなく、九割がたの事実。
 いいや、事実としては十割であり、心理描写が文字数不足といったところだ。
 ルイの過去は秘匿ではないが、言って回るようなものでもない。
 本人が何とも思っていなくても俺はルイが哀れまれるのも腫物あつかいされるのも嫌だ。

 俺が折れなければ冊子を持ち出して「これをみんなに読んでもらおう」と言い出しかねないのがルイの怖さだ。

 恥を恥だと思わないというよりも、俺のためなら何をしても恥ずかしくないと考えている。普通に考えれば、いちいち突っかかってくる俺のようなバカの相手などしない。
 面倒だし、第一、同類に見られるのは嫌だろう。
 ルイは気にしない。
 それどころか、俺と同類に見られて微笑むような謎メンタルで生きている。
 俺と手を繋いで歩いて喜んでいるあたり、おかしい奴だ。
 これを口に出したらお互いさまになってしまうのかもしれない。
 俺も俺で、ルイと手を繋いで歩くことにテンションが上がっている。

◆◆◆

 国王陛下への謁見というスタイルは、人払いによって終わりを告げる。
 緊張と不安と困惑が精神をぐずぐずにとかそうとする前に国王陛下は俺とルイの剣の師匠であるレレおじさんの顔をする。
 現国王陛下レイズ・アーレンス・エーベルハルトは個人的な顔見知りだった。これは今まで知らなかった事実だ。

 国王陛下との謁見などしたことがない。社交界などに出席するのは兄の役目であり、俺は貴族社会とのかかわりがなかった。
 新聞的なものに掲載される似顔絵はレレおじさんと似ても似つかない爽やかイケメンだったので、コレは詐欺だ。

 アニメの中に現国王陛下の影も形も出番はないが、VR内で俺へ好意的な感想を拾い集めている中で見つけた考察にあった。
 VR内の考察にあったということは、妄想ではなく誰かの記憶の中をすくって、考察という体で俺に教えていたのだ。

 二次創作を精度の悪い未来予知という観点で言うなら、考察系感想は本当と虚構が入り混じった真実である可能性が高い。
 虚構自体も嘘というよりも脚色とか、埋まらない情報をアニメ漫画小説のあるあるテンプレで穴埋めして作り上げているエピソードなのだろう。
 たとえばルイが女装している写真なんかが出てくるが、その横に目つきの悪い黒髪の少女がいる。アニメ本編で言及されていない事実だが、それは俺が女装しているという考察がされていて、事実だ。

 アニメ内でレレおじさんという名前は俺とルイの共通の知り合いとして語られる。
 最初聞き流していた、女性陣があるときからレレおじさんの話題に食いつきだす。
 その変化はルイが国王陛下から頼まれごとをしたという会話のあとからだ。

 ルイはレレおじさんについて語ることはあっても国王陛下について語ることはない。国のことを思っているルイが話題にしないのはおかしいという考察だった。
 国王陛下の人柄を知っていそうなルイがあまり話題に参加せず、レレおじさんの話をしだしたりする。
 そのうちに出た答えが、剣の師匠であるレレおじさんイコール国王陛下説だ。これは説ではなく、事実だった。

 同じように現実の俺が未だに知らない事実をVR内で何らかの形で見聞きしているのかもしれない。だとしたら、それは魔獣に食われて一体化するという未来を回避するための情報だ。

 俺がVR内で集めいてた情報は最終的にルイクヌに着地してしまったが、クヌート・クライネルトが幸せになる可能性の追求だ。
 クヌートにとって好意的な意見やクヌートのためになる情報を収集していた。

 最悪の状況に進まないためにクヌートに助言するモブが主人公の小説があったが、更新は途絶えており、魔獣との一体化が回避できたかは怪しい。
 アニメを視聴したモブの助言程度で、クヌート・クライネルトはクヌート・クライネルトとしての行動をやめないということだろう。
 原作改変二次創作は難易度が高い。俺のせいだが。

 逆にルイクヌ時空における生涯のなさは異常だ。クヌートはよくわからないうちに問題が片づけられて幸せになっている。

 現実で考えると何もかもが上手くいくわけがないと思えるが、俺がルイに全面的に頼るというキャラ崩壊を受け入れるなら、ゼロではない未来だ。
 ルイのチートスペックを考えれば、魔獣が俺に寄りつかないように新作のマジックアイテムぐらい作れるだろう。

「眠り姫を出さないように考える王さまって大変だな」
「くーきゅんの突然の現実逃避からの帰還の言葉がさすがに予想外だよ? 魔獣に食われる未来が自分に訪れるかもっていう危機感は素敵だけどねぇ〜」

 軽い口調のレレおじさんにルイが面白くなさそうな顔をした。
 剣の師匠であるレレおじさんは、適当な大人というイメージだった。アニメで適当な大人が実は権力者、または実力者というのは、よくある展開なので、現実もこんなものなのかもしれない。

 俺が国王陛下に剣を習っていて、この体たらくは切腹ものだが、彼は剣が苦手だという。ルイに秒殺されていた情けなさを思い出すと国王陛下と言っても緊張するのがバカらしい。

「気づいていないようだから言っちゃうとくーきゅんの思考って私に駄々漏れだからね。おじさん、そういう才能持ちだって話したよね? 忘れちゃってると悲しいんだけどぉ」

 王家の人間は精神感応能力を持っているとレレおじさんが言っていた。テレパシーや読心術のようなものだとVR内で得た知識で理解できるようになった。
 以前は意味不明だった。
 ルイの心が閉じているから、王家の人間としての力があまり使えないとかそういった話だ。
 人の考えていることがわかるから、剣筋を見切れるというズルをしていた彼をルイは秒殺していた。
 勇者語録の「当たらなければどうということはない」をつぶやいていたが、ちょっと使いどころが違う。
 拳じゃないが「右ストレートでぶっ飛ばす」が最適だった。

「そうそう、才能あふれるルイぼんが読心術系統の能力を開花していないのが謎だったけど、それを読んで納得」

 無駄にマントをバサッと動かしながらルイが手にした冊子を指さす。物でも人でも指をさしちゃいけないマナーがあった気がするが、あえて無視する俺カッコイイなんだろうか。

「心の声が聞こえているって言ってるのに容赦ねえなぁ」
「それで? 大切な話だということでしたがないなら、帰ります」
「ルイぼんが冷たいお。……いや、マジで祖父さんを思い出して呼吸が止まりそうになるから睨まないで」

 自分でからかいに行って、睨まれて怯えるって道化ですらない。無駄に時間を過ごさせないでもらいたい。

「今までのこと、改めましてのお礼と今後の話だよ。次期国王陛下」

 玉座に座り込んで「かー」と下品な声を出すレレおじさん。
 ちゃんとした格好はルイのカラー違いの将来像に見えていたが全然違う。ルイはこんなおっさんくさい動作をしない。

「ルイ・アーレンス・エーベルハルトの力の獲得に条件があるんだろうっていう推測は前からされていた。だがな、前例がないし、本人に自覚がないなら調べようがない」
「VR内の創作物とはいえ、学者の研究論文と同じ価値があるってことか? あれに」
「くーきゅんの意外とおバカじゃないところ、好きよ」

 茶化すようなレレおじさんだが、座ったままではあるが頭を下げた。
 国王陛下としての顔なのだろうか。国王陛下なら頭を下げるのはまずい気がする。

「君はルイ・アーレンス・エーベルハルトを神にも化け物にしないでくれた。それだけで、クヌート・クライネルトを処刑しない理由になる。君はクライネルトの人間として正しい振る舞いをした」

 心に直接「ありがとう」と囁かれた気がする。
 ルイの父親とレレおじさんは、いとこ同士らしい。
 年齢的に近い二人は親友なのだと聞いたことがある。

「クヌート・クライネルトという指針の正しさをルイ・アーレンス・エーベルハルトの生き様が証明している。君が無罪になったことを誰も否やは言わんだろうさ」

 当然だとルイはうなずく。俺の中に刺さった罪悪感をトゲぬきで丁寧にとられている気がする。

「冊子の内容に付け加えて、今回の暗殺者が用いた甘言が母親の話を君にしてあげるというものであり、肩書きが母親の兄だという調べがついている」

 暗殺者を手引きしたことを俺は釈明しなかった。
 相手が暗殺者とは知らなかったが、騙されたことは言い訳にならない。というよりも、言い訳をしたくなかった。母の記憶がないことを公に話したくなかった。

 ルイとも顔見知りだという、自称伯父のことを普通なら信じない。
 けれど、母の記憶をなくしたせいで伯父のことも記憶にない可能性があった。
 俺に記憶がなくてもルイなら分かるだろうし、相手が嘘をついているなんて考えていなかった。

「さて、ルイぼんの覚醒イベントあつかいされてるクライネルト襲撃事件とくーきゅんが呪いを食らったクヌートの悲劇と今回の暗殺と未来の魔獣にぱっくんちょ」
「気が抜ける言い回しになっていくのかよ……」
「おじさん、シリアスがもたないんだ。キリっとした顔したくない」

 真顔でわけのわからないことを言いだした。国王陛下って大変なんだろう。
 隣にいるルイを見る。
 ルイもいつかこんな風に変わってしまうんだろうか。
 俺の視線に微笑むルイはいつもと変わらず優雅で格好いい。
 疲れたおっさん臭などまったくない。

「想像が出来てるだろうが、アンチルイぼん派がくーきゅんの排除活動を頑張ったわけだよ。でも、ルイぼんはそんなことわかってるから、くーきゅんを苦境に立たせたくない。だからVRによる更生をおこなった」

 それはわかっている。
 俺の意識改革が行われて、無駄にルイに突っかかったりしないことが目的だったのだろうことは理解している。
 客観的に自分を見つめ直して、悪い部分はよくわかったつもりだ。

「違うんだよ、くーきゅん。ルイぼんはいつだって、どんなくーきゅんもオールオーケーだから、変化なんか望んでない。成長は嬉しいかもしれないけどねぇ。意識改革を求めてるのは他人へだ」

 この場合の他人というのは、俺以外という意味なんだろう。
 たしかに今回のことで、父や兄、騎士団長や裁判官、女性たち四人との関係は変わった気がする。
 彼らが俺を見る目が、優しかったり残念なものを見る目だったりと以前よりもあたりが柔らかくなっている。
 すこし話しただけでも違いは顕著だ。

「ルイぼんがまどろっこしいって顔してるから、結論から言いますね。はいはい。おめでとう。無事に黒幕フラグは折れました」

 響く拍手の音が白々しい。
 ルイが俺の手を握る。よかったと安心している顔じゃない。
 どこか、つらく悲しいものを飲みこんでいる表情だ。
 間違いであればよかったと考えているような切なさが滲んでいる。
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