::名前 ひかり、と、耳に心地良い声に、ひかりは思わず笑みを漏らす。その時、エレベーターが上に向かって動き出す。 「あ、ごめん。降り損ねたな」 「あっ、う、ううん、大丈夫ですよ、ひか……」 彼女の語尾が消える。 「……どうした?」 顔を覗き込めば、ハトリは顔を真っ赤にしていた。ひかりの方も、目を瞬かせたのち、つられたかのように顔を赤くする。 「…はずかしい…」 「………へ」 「や、やっぱり、その……ひ、ひかりくん、じゃ、だめ、ですか…?」 …あー、とひかりが顔を上げれば、エレベーターのランプは9、10、11、12、とどんどん上がっていく。止まる気配がない。最上階まで向かうのだろうか。そんな考えを頭の隅に追いやり、もう一度ハトリの顔を見る。 「……まぁ、優良可で言ったら、可、って感じで。今はそれでもいいや」 「…あ、ありがとうございます…」 …ひかりくん、と、名前を呼んでくれる声が心地良い。エレベーターの速度が緩む。エレベーターは、最上階の手前、21階で止まった。 2016.01.23 (Sat) 23:11 back |