蝉時雨.(金天)


僕の季節だ!
豪語するように蝉達は唄う。短い生涯を全うしようと、懸命に。
どんなに太陽が照らそうと、命が尽きる迄主張を止めない。

それを五月蠅いと一蹴する人間のどれだけ心の狭い事か。
夏が来たなと感じるのは何時も、彼らの鳴き声の後だ。

ちっぽけだと、言われるのかもしれない昆虫が暑い季節の到来を知らせる。
こんなにも、どうしようもない人間達に。

あの唄は生きる唄だ。声を枯らせても、止む事のない、命の。

喉をやられて、心に傷を負った人間には、ひどく残酷な程響いたものだった。何だって、そんなにも、お前達は必死になって声を張り上げられるのかと。


ああ、譬えるのなら、彼女はそれに似ていた。
眼を反らさずに懸命に、ただ真直ぐ突き進む。

命を賭けると言葉にするのは至極簡易な事だ。
子供の頃に、命賭けろよ絶対だぞ、なんて口にして、後悔をした事がある。それ位軽い言葉だった。

それを証明するかのように、彼女は武器を持って立ち上がる。何度でも。
たった一枚の写真が、たった数行の記事でも、『心』に響けば捕らえる事が出来る。今度は音楽を、眼だけでなく、耳で、全身で感じたくなる。
まるで魔法に掛けられたかのように、報道部の記事は音を奏でて見せた。一瞬を閉じ込めた一枚から、素晴らしさを伝えようとして。

決して振り返らなかった。何の確証がなくても、ぶつかって行った。
そして、手に入れる事が出来た。それは、完全な、彼女達全ての勝利。

そうだ、彼女は、唄っていたのだ。彼等に合わせて、ずっと。


何時か、その羽根を失って、声が嗄れても、彼女は歌うだろう。
その眼が、伝えられる全てを。



踏み出すのに、遅い時期なんて在りはしない。『手遅れ』だと決めるのは何時だって人間だ。
希望を見出だせるのもまた、人なのだ。自分自身で見付けるものであるからこそ、踏ん張れる。
もう一歩高く跳べる。

諦める事は、どんなに安易で気楽だろう。
だけれど。この足が願うのは、踏み出す事だ。
希望を握り締めて、一歩先へ。



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