[ブルークリスマス]



「…遅い」

吐いたため息は白くなってすぐ消えた。
いつものことだとは分かっていても、今日だけは真選組や近藤じゃなく、俺を優先してくれてもいいんじゃないだろうか。だって今日はクリスマスだ。目の前を通りすぎていく幸せそうなカップル達。くそ、全員爆発しやがれ!なんて思ってみるが、もちろんこの穏やかな冬の日にそんな惨事は起こるはずがない。
銀時は、待ち合わせ場所である時計台にそっともたれた。



「…遅ぇ」

せめて今日だけはと、仕事も近藤さんも振り切って、15分早く待ち合わせ場所の時計台についた。
ちょっと早く来すぎたな、なんて少し恥ずかしく思いながらも、たまにはいいかとゆっくり煙草の煙を吐いた。のが、一時間前の話だ。銀時は遅刻なんてしたことがなかったはずだ。なのに今日に限って。だいたいクリスマスだから一緒に過ごそうと誘ってきたのはあいつの方だ。言い出したやつがこれじゃあ話にならない。時計台の広場はカップルで溢れ返っている。くそ、爆発しろてめぇら。
土方はいらいらと煙草のフィルターを噛んだ。



「もしかして土方こないんじゃね…?」
口に出してそう言うと、本当に来ない気がしてしまい、慌ててそんなことないと首を振った。約束の時間から二時間過ぎてしまった。まあ確かに誘ったのは俺だ。しかも巡回中の土方を捕まえて、渋る土方になんとかクリスマスに会う約束を取り付けたのだ。でも俺たち付き合ってるんだよね?プレゼントだって用意したんだよ。一生懸命働いて、土方のために青いマフラー。一目見て土方にぴったりだと思ったそれは今、ていねいに畳まれ赤い袋に包まれている。それを右手に持っている俺は、周りからどんな風に見られているんだろうか。恋人にすっぽかされたかわいそうな彼氏?いやいや。きっと土方はくるはず、きっと…。
全く確信が持てないそれに、銀時は頭を抱えてしゃがみこんだ。




「銀時、本当にくるんだろうな…」
さすがの土方もだんだん心配になってきた。どこかで事故に遭ってたりとか。あり得ないことではないだろう。土方は右手に持った赤い袋をぎゅっと握り直した。プレゼントも用意したのだ。万事屋にいくといつも震えている銀時が、せめて外に出るときだけでも暖かいようにと、青いマフラー。
どうしよう、渡せなかったら…。事故なんかで死んじまったらもう一生会えない。そう考えると胸が苦しくなって、土方はその場に屈み込んだ。





「何やってんですかねぃ、あの人たち」
「…待ち合わせじゃないですか?」
「バカ言ってんじゃねぇよ山崎、あんな待ち合わせの仕方あるわけねぇだろ」
「いや、その通りですけど…」

銀時と土方は、時計台の「台」の部分を挟み、お互い背中合わせで待っていた。


「…不器用な人たちだなあ」

でもどうせ、気付いたら口喧嘩はじめて、でもちゃんと来てたことにほっとしちゃったりするんでしょ。不器用で素直じゃないけど、なんて幸せな人たちだろう。


山崎は、そこから離れたがらない沖田をひっぱり屯所へと歩きながらそう思う。






「銀時…」

「…土方」


降り始めた雪に二人は顔をあげる。


「早く会いてぇよ…」


青いマフラーと二人は、この長い待ちぼうけに、どれだけ耐えられるのだろうか。





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