[ちょっとは可愛く見えた?]


ちょっとした、多分、いつも通りの文句のつもりだったのだろう。

「たっく…ホントお前って可愛くねぇな」

半強制的に取らされた有給の使い道に恋人と過ごすことを選んだ。冬の寒さも深まっていることだし、と鍋をする事になって、そのまま二人で飲み比べみたいになって。

そしていつもの幼稚な口喧嘩が始まったのだ。

そして言われたさっきのセリフ。

いつもなら聞き流せている言葉が、男が可愛いわけないだろうと言い返していることが、何故だか今日はグサリと胸に突き刺さって、ほとんど役割を放棄している涙腺(夜はまた別だけど)が緩んだ。

きっと、仕事をしないのに問題ばかり起こす部下と人の労力ばかり重ねさせる上司に対してのストレスが溜まりに溜まった結果だ。うん。

ポロポロと流れ落ちる涙を止めることもせずにキッと睨みつけて、目の前にある白い着流しを乱暴に掴んだ。

その際にガタンと机にぶつかって残すところ締めの雑炊だけとなった鍋がガタガタとコンロの上で揺れる。

「え、ちょ、土方くんどした…」

「…て………な…」

「へ?」

「可愛くなくて悪かったな!」

「ーっ」

突然怒鳴り出した俺に銀時は目を見開いて動きを止める。そりゃあそうなるよな。俺だって目の前で急に男が泣き出したら焦る。しかも急に怒鳴り出したんだから引く。確実に。つーか俺なにやってんだ、マジで。

「かわ、く…ね、こ…とッ…らい…わかっ、て…だよっ」

何をやってんだと考える頭とは裏腹に口先は勝手に動いていた。可愛くないなんてことは一番自分が知っている。そもそも俺は男で可愛いなんて言葉に一喜一憂する質でもねぇし嬉しくもない。なのに泣きたくなんかないのに涙は止まることはなくて次から次へと溢れていく。どうすればいいのかなんてわからなくて俯いて唇を噛み締めた。

目の前のクサレ天パはといえばあたふたして対処に困っている気配が伝わってきてなんだかそれが少し面白かった。

いつも飄々としているコイツが俺の事になると必死の顔をするんだ。日頃から振り回されてる分、偶には仕返しでもしてやろうか。

いつもならこのまま睨みつけたままで終わるだろう。

そう、理性のきいたいつもなら。けれど生憎今はどこぞのゴリラとドS王子のせいで全てが極限なのだ。崩壊寸前なのだ。だから意識が変な方向に向いた。

「……こ…」

「へ?」

きっと間抜けな面をしている銀時に、可愛いと思わせてやろうなんて、日頃の俺なら絶対にしない。

「抱っこ!」

下げていた視線を上げて睨みつけるように赤い瞳を見つめる。おまけにいつぞやか可愛い可愛いと連呼していたのを思い出してぷくりと頬を膨らませてみた。

合わせ目を掴んだ手はそのままにして駄々をこねる子供みたいに少しだけ引き寄せる。

本当にこんなのでコイツは可愛いと思うのかと冷静な俺が脳内で言うが、「ぐはぁっ!!」と鼻を押さえている姿にまぁまぁ効果はあったのだろうと思うことにした。

ニヤリと口角を上げて挑戦的な視線を送る。

あぁでもさっきまで泣いてたからあんまり効果ねぇんだろうな…

「どうだ。少しは可愛く見えたか」

俺の言葉に銀時は大きく目を見開く。けれどすぐにだらしなく相好を崩した。

両脇に腕を差し込まれてひょいと向き合う形に膝の上に抱き上げられる。

嫌でも視線が絡んでつい先ほどの自分の言動と今の態勢を意識してしまいカァッと顔が熱くなるのを感じた。

「なぁに可愛いことしてくれちゃってんの?」

「っ、るせっ」

「これ以上銀さんを首ったけにしてどうすんのさー」

「だからるせぇって!お前もう黙れっ」

「ヤダね。」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて必然的に肩口に顔が近づく。ふわふわと好き勝手に跳ねている毛先が当たってくすぐったかった。

「ぎんっ」

「……不意打ちはだめだよ〜十四郎君」

「……」

「あんなの冗談に決まってるでしょ。十四郎は可愛いよ。そりゃあもう世界中の何よりも可愛い。」

甘い声で、とろけそうな瞳を向けてそんなことをいうもんだから嫌でも頭の中は甘いモノに侵略されて。反撃してやるつもりがまたいつものようにうまい具合に丸め込まれていることに気づいて眉間にシワを寄せた。


「あーもぅ、可愛い顔が台無しじゃん!笑って笑って!」

「ほっとけっ」

ぎゃあぎゃあと先ほどまでの沈んだ気分が嘘のようにいつも通りに言い合いを始める。

ただいつもと違うのは互いの体温を少しでも感じようと体を密着させていることぐらいで。

「もう離せ!テメェのせいで雑炊食い損ねただろうがっ」

「銀さんのせいじゃないですぅ可愛く誘ってくる十四郎が悪いんですぅ」

これでもかというほど強く抱きしめられるのを躍起になってはずそうと腕を突っ張るも、そこに本気で力を入れているのかのと言えばそうでもなくて。

じんわりと広がる温かさを感じて、冬が明けるのももうすぐなのだろうと近づいてくる雪のような銀髪を眺めながらそうおもった。





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