次の日の朝食を食べていると、やけにグリフィンドールの座席が煩かった。それに大半が箒を持って焦りながら食べ物を口に運んでいる。
「なんかあるわけ?」
そう問うレディーにオルガは「クディッチの練習じゃない?」と適当に返事をする。
レディーは頬杖をついてコーヒーの中に入れた角砂糖をユックリと掻き回す。
「なるほどね」
「ほら、選抜が近いから」
そうかもうそんな時期か。グリフィンドールはウィーズリーの双子が活躍していたのを知っているくらいだ。あと、ハリーがシーカーってこと。
まぁドラコが出ているから見には行っていたが、隣で応援するパンジーの高いキーキー声が耳に響いて倒れたことがあってからあまり好きになれない。
「あ、レディー」
「なに?」
オルガは微笑みながら自分の腕を指差した。
「やっぱりブレスレット似合うわよ」
レディーが手につけていたブレスレットを見てニコニコ笑うオルガに、ありがとうと返事をしてグリフィンドールのテーブルを見た。
「ねぇオルガ、今度グリフィンドールと戦うのってスリザリンよね?」
「えぇ、たしかそのはず」
「・・・ドラコが出るなら見に行こうかな」
その言葉にオルガはぴくりと反応する。眉を寄せ、まるで気の毒だとでもいうような表情をした。
「…レディー、マルフォイがシーカー辞めたって聞いてないの?」
「は?なにそれ」
「二日前かな…なんかパンジーが叫んでた。『ドラコがクディッチ出ないなんて』って」
レディーは一度目を見開かせたが、すぐに目を閉じてため息をついた。コーヒーに反射する自分の顔は酷く寂しそうだ。
「…どこに行く気かしらね、ドラコは」
目をゆっくり閉じて切なく笑う。意味深な言葉にオルガは顔を上げた。「どういうこと?」と首をかしげている。
「まるでドラコが学校から姿を消そうとしてるみたいじゃない。自分に関することから離れて、痕跡を残さないような感じがして、いつでもここから離れられる準備してるみたい」
「レディー・・・」
レディーはいきなり机を勢いよく叩いて立ち上がった。周りの生徒がチラリと見てきたが、あぁエジワールの奴だといいながらまた自分たちの会話に戻っている。
「暗い話しはやめよ!ねぇオルガグリフィンドールの練習見に行きましょうよ、ダンブルドア軍団で仲良くなったんだし」
バンッと大きな音を立てて立ち上がり、無理に笑うレディーに、オルガは複雑な気持ちを隠せなかった。
「あー…、ゴメンレディー私用事あるの」
「そうなの?私暇だからちょっと行ってくるわ」
「わかったわ、今日は別行動ね」
OK、と言いながらレディーはコーヒーを飲み干してグディッチの練習場へと足早に向かって行った。
オルガはレディーの後ろ姿を直視できなかった。
「レディー…私はあなたがどこかへ行ってしまいそうで怖い…」
私は貴女をこの世で一番尊敬するわ。いつだって自分の背筋を曲げないんだもの。
だからマルフォイ、あなたを許さない。私の天使を泣かせた罪は大きいわよ。
‐‐‐‐
空を箒で駆け抜ける赤いユニフォームを着たグリフィンドールのチームをみて、レディーは思わず頬が緩んだ。
観戦場までの階段をユックリと登っていく。
ルーナと目が合うと手を振られたので振替し、横に座りこんだ。
「はぁいレディー」
「ルーナ、相変わらず変わったもの付けてるわね」
コルクでできたネックレスを指差して「そう?」と首を傾げるルーナに、レディーは苦笑いをした。可愛い顔をしているのになんだかもったいない。
「私が今度もっと可愛いネックレスあげるわよ」
「ううン。いらない」
「ルーナにはもっと似合うのあるわよ、例えば黄色とか!」
「いいの。私はこれ、離したくないし。レディーもそうでしょう?新しいものをあげるって言われて、お気に入りを変えること出来る?」
「・・・」
ルーナの視線が痛い。全てを見透かされているようでうまく笑えない。
「ネックレスも、本も、友達も…。それに好きな人も。変えることが出来る?ドラコ・マルフォイの存在を掻き消して他の人を好きになんて、なれないでしょう?だから感情が生まれるンだよ」
ああ、この子はなんて鋭い子なんだろうと改めて実感した。確かにそうだ。自分の中の一番はずっと塗り替えられない。いつだって色褪せることはない。
心に大きな穴が空いた気分になるのも、自分の1番大切な人がドラコだからで。キツイ一言で涙が出て、フラれて辛いからこの感情が生まれるんだ。
「そうね、なれないわ…。ねぇルーナ」
「なあに?」
「ありがとう・・・」
涙を流し手で顔を隠したレディーにルーナはよしよしと言って頭を撫でた。
ルーナは新学期の日、私がドラコにフラれたことを諭したらしい。ハリーも気づいてたよと言われた時は参ったと思った。そりゃいきなりアレだけの態度になればそうか。
「ロン!頑張って!!」
斜め前からロンをやたら応援する声が聞こえる。ラベンダーだ。この間までシェーマスと付き合ってたはずだが…この子たちも別れたのだろうか。
「好きなンだね、ロンのこと」
「え?あぁ、ラベンダーね。そうみたい」
「ハーマイオニーにしばらく気を使わなきゃ」
「は?」
つまりそういう事。と、ルーナが微笑んだ。ハーマイオニーそうだったのか。あのロンに。と、レディーは思わず斜め後ろにいるハーマイオニーを見やった。
「ねぇレディーずっと前から言いたかったことが」
「なぁに?」
「私たち髪の毛似てるよね。レディーの方が濃いブロンドでサラサラで綺麗だけど」
ルーナがレディーの髪を触ってニコニコと笑った。ルーナの方が長いが色素が薄い。どっちにせよルーナも綺麗な髪だ。
「どっち似?」
「え?」
「パパ?ママ?髪の毛の色」
「あぁ、ロデオ…じゃくて、父よ」
「私と一緒だね」
ルーナがまた嬉しそうに微笑んだ。きっと父親のことが大好きなんだろう。
レディーはそんなルーナなことを可愛く思いながら、空を飛び交う人々を見て笑った。
(父親からもらった色なの)
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