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「あのー。三日間休みを貰いたいんですけど」


スーツを着た男が少し気まづそうに頭をさげた。会社のオフィスでその男の前にいる社長は何故だと言いたげに部下を睨んだ。


「ナイト・ランドールくん。君はこれまで休みを取ったことが無かっただろう。なぜだね?」


そう、その男とはランドールのことだった。卒業してからとある企業に入ったランドールは駆け出しの社会人として毎日忙しく過ごしていた。いそがしいながらも仕事にやりがいは感じていたし、なんだかんだ楽しいと思っていた。それゆえ休んだことがなかったのだが、今回ばかりは休まざるを得ない。たとえ会社を首になろうとも必ず休まなければならないのだ。


「あー、友人の」

「友人の?」

「結婚式なんですよ」


これ招待状で、と取り出したのはドラコとレディーから届いた結婚式の招待状。もちろん出席に丸が付いている。


「そんなことで休みを…?」


社長にジロっと見つめられ思わず冷や汗が垂れそうになるが、いっそクビにされても構わないと思い大きな声を出した。


「私にとっては自分の結婚式よりも大切なんです!!」


オフィスにランドールの声が響いた。社員達が一斉にランドールを見る。有給申告書の置かれた机に部長はドスン!と拳を落とした。ビクッとするランドールをよそにその表情はとても朗らかだ。


「やっと有給申告書を持ってきたなランドール!!!もちろんだ3日と言わず一週間休んできなさい!!」


有給申告書にはハンコがしっかり押されている。オフィスからは「やっとか!」「ゆっくり休んでこいよ!」と声が上がる。ランドールは目が点になっていたが、朗らかに笑う社長を見てニコリと笑い、「ありがとうございます」と紙を受け取った。

まぁ社長はジョージ・ウィーズリーなのだが…。


(ここはw.w.w本部製品開発科さ!ちなみに僕も結婚式に参加するから3日は休むぜ!)

(有給申告書出す時の、この茶番劇大好きですよ社長)


---


「あら、お店一週間休みなの??」


常連のお客が不思議そうに店の掲示板を見た。オルガは会計をしながら御免なさいね、とお客に微笑んだ。


「結婚式なんです友人の」

「へぇ!なるほどね」

「学生時代の友人で、親友だったものですから」


これお釣りです。と、女性の手にお金を渡す。女性はありがとうと受け取りながら財布にお釣りをしまった。


「それは楽しみね、スターシップさんがヘアスタイルをやるの?」

「ええ、友人の頼みで」

「スターシップさんがやってくださるなんて幸運な方ね」


いえそんな、と謙遜したがオルガはとても嬉しそうだ、ヘアスタイルはもう決まっている。事前の打ち合わせはバッチリだ。


「どちらの式場ですの?」

「マリアージュチャペルですよ」

「まぁあの!?お相手はさぞお金持ちなんでしょうね!」

「ええ、嫌味ってほどね」


クスクス笑うオルガに女性はつられて笑った。良いわねぇと言いながら店のドアに手をかける。オルガはすかさずドアを開けるのを代わり、駐車場まで見送りに行った。


「いつもありがとうスターシップさん。楽しい結婚式になるといいわね」

「こちらこそありがとうございます」


もう店を閉めなくては、明日は事前の打ち合わせだ。レディーが結婚式まで暇だなんだと言っていたあの時からあっという間に時間が経ってしまった。
カーテンを閉めると店のドアが鳴った。クローズにしたんだけど、と思いながら首を傾げドアを開ける。


「よ!」

「ランドール!」


久々と言いながら手土産をぶら下げたランドールがドアの前に立っていた。ハグをして中に通す。実は卒業式ぶりなのだ。レディーやマルフォイは頻繁に会っていたようだけど。


「なんでうちの場所を?」

「そりゃオルガ・スターシップと言えば今期待の新人と呼び名の高い美容師だからな」


口コミさ、と笑いながらランドールは手土産を差し出した。中を開けるとベイクドチーズケーキ。とても美味しそうで思わず微笑んでしまった。


「ついに明後日か」

「ええ、早かったような、遅かったような。どちらにせよ待ちわびた日」

「本当は俺の隣にいる予定だったんだけどなぁ媚薬ありで」


あははと笑うランドールに、冗談が冗談に聞こえないと、オルガは声を出して笑った。


「友人代表のスピーチよろしくね」

「俺ドラコの父親たちに聞かれるの嫌なんだけど」

「何言ってるの親族がいるのなんて当然でしょ。しっかりしなさいよ」

「もしスピーチに失敗したらアバダケタブラされっかも」


ヴォルデモートの顔真似をするランドールに思わず吹き出してしまう。もし失敗したら私がそれをやってやるわと、オルガは杖を振り回した。怖い怖いと言いながらランドールの視線がとある場所にうつる。オルガの部屋に飾ってあった一年生の頃からのレディーとのツーショット写真だ。


「綺麗になったな」

「本当ね」


ランドールが一年の頃の写真をなぞった。自分を救ってくれた彼女。居場所をくれた彼女。初めて女の子を好きになった。本気で愛していた。レディーの笑顔を見ると心が落ち着けた。そんな彼女はもう明後日にはお嫁に行ってしまう。

ランドールの頬に涙が伝った。


「まだドラコのものって受け入れられない?」

「いや、この涙は嬉し泣きの涙さ」


世界で一番好きな人には、一番幸せな場所にいてほしいんだ。それに、それが親友のドラコなら、もうなにも心配いらない。


「俺明後日ダメかも。泣きすぎて」

「一生分泣いてなさい」



(あの子は明後日結婚する)

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