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「なぜ走る」


ランニングからお腹を空かせて帰ってくると、夕日も出ていないのに、どこかの青春スポーツドラマのコーチのセリフか何かか?と言わんばかりにドラコは眉間にしわを寄せ、腕を組んで家のエントランスで仁王立ちをしていた。


「結婚式近いからに決まってんでしょ」

「十分細いだろ…」

「去年のことを覚えていないの…」

「は…?」


レディーは目を閉じてグッと唇を噛み締めた。悔しい…悔しすぎる…!と言いながら頭の上にハテナを浮かべるドラコなど放って去年のことをナレーションのごとく話始めたのである。


___


ホグワーツを卒業した日、汽笛のなるホームでプルートを見つけた。お久しぶりですと言わんばかりに、プルートは満点の笑みで駆け寄って来る。レディーも「わー」と言いながらプルートの手を握り、久しぶり久しぶりと旧友に会った時のように喜んだ。


「プルート場所はわかってるな?」

「はいドラコ様、あとお荷物も運んでありますよ!」

「よし、行くぞ」


早くしろと、ドラコはレディーに手を差し出した。反射的に手を掴むとあっという間に場所が変わっていた。キラキラした外観。綺麗なカーペット。いい匂いのする花。ドレスのお店だったのだ。ウインドウには手を繋いだ男女のマネキンが、ウエディングドレスとタキシードを着て飾られている。


「わー!!」


思わずテンションがあがり走り出そうとするレディーを取り押さえたドラコは、そのまま受付までレディーを引きずった。何するの少しくらい見せなさいよと喚く彼女に眉を寄せ、ニコニコ微笑む受付嬢に「予約をしていたドラコ・マルフォイです」と声を掛けた。


「お待ちしておりましたマルフォイ様、ご案内いたします」

「おい!いつまで暴れてるんだ行くぞ!」

「少しくらい見せなさいよ!」

「ふふ」



そんなレディーを見てクスリと笑った受付嬢のお姉さんに顔を真っ赤にして、レディーはようやく落ち着いた。


「これから嫌ってほどたくさんのドレスを見られますよ。それでは5階に案内致しますわ」


チラッと受付嬢を見る。胸元の「コールマン」の文字と、左薬指の指輪を見て、あぁこの人はコールマンと言う人と結婚したんだなぁとしみじみ考えてしまった。綺麗に微笑む彼女は、私とドラコをそりゃもうたくさんのウエディングドレスが置かれた部屋に案内してくれた。


「すごい…」

「ね、いっぱいあるでしょう?好きなものを試着していいので、係りの者に声をかけて下さいね」


失礼します。そう言って受付嬢は受付の仕事へと戻ってしまった。
ドラコをちらりと見つめる。ドラコは何が言いたいのかわかっているようで、ため息をつきながら、でも微笑んで「好きなの探してこい」と言ってくれた。


「では旦那様はタキシードを見ますか?」


試着案内の係が笑顔でドラコに話しかけてきた。旦那様。聞きなれなくてなんだか照れ臭い響きだった。でも幸福だと思う。ほんと数ヶ月前までは信じられなかったことだ。


「いや、僕は後でいいんです。先にあいつで」


嬉しそうにドレスを見るレディーの顔は輝いていた。連れて来てよかった。そう思いながらレディーを見つめていると、レディーが一つのウエディングドレスの前でピタッと止まったのだ。お気に入りが見つかったのだろうか、ドラコが近くに行くと、レディーはそのウエディングドレスを掴んで「これがいい!!」と言うのだ。


レディーが選んだウエディングドレスはプリンセスラインの少しクラシカルモデルのもの。意外だった。マーメイドラインのドレスでも選ぶかと思っていたが。


「へぇいいじゃないか。試着してきたらどうだ?」

「そうね!」


レディーの笑顔を見たのは試着室に入る前のその瞬間までだった。試着室から出てきた彼女は顔を真っ青にしてこの世の終わりと言わんばかりに言うのだ。


「太った…」

「は?」



何でもホグワーツを卒業してから結構太ったらしい。それでも一般人より痩せてると思うのだが、モデル体重モデル体重と高を括るレディーからすればもう絶望だったようだ。ヴォルデモートがいなくなり平和な生活をするようになってから、一年分の栄養を摂取するようにアホみたいに食べていたのは知っている。スターシップと一緒になって
「ヌガー!おいしい!」
「このスコーン!おいしい!」
とりあえず美味しいと言っときゃいいだろスタイルで、後輩のスリザリン生が引くくらい二人は食べていた。そのツケが回ってきたと、絶望したレディーはその次の日からウエディングドレスにわずかに乗った二の腕をつまみながら強烈なダイエットを始めたのだ。


そんなことがあった去年から11ヶ月。物語は冒頭に戻る。この一年でレディーは努力の甲斐あり引き締まったスマートな体型に戻ったわけだが、ランニングを始めとする自称トレーニングを辞める気がないのだ。



「おまえなぁ」

「なんでそんなに美しくなることに反対するのよ。ドラコの分からずや」

「違いますよレディー様、ドラコ様は朝起きて横にレディー様がいないのが嫌なんですよ」

「な!!」


いつのまにか隣にいたにこやかに笑うプルートに、ドラコは顔を真っ赤にして睨んだ。レディーあぁなるほどと言わんばかりにニヤけている。デタラメ言うなとプルートを一括した。


「可愛いードラコ」

「ふ…」



(ふざけるな!!!)
(図星のくせに)

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