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レディー








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「ランドール!!!」


立ち上がる埃と、建物が削れて出来た砂、それに散らばるコンクリートの破片とガラス。それがランドールの頭上へと落ちた。
オルガがランドールランドールと叫びながらコンクリートを退かそうとしたがコンクリートにつくガラスの破片で指を切ってしまった。それでも彼女はコンクリートをどかすことを止めない。


放心状態のレディーを見てドラコは自分は冷静さを欠いたら終わりだと思った。オルガは指先から出血しているのに痛みが麻痺しているし、レディーは目の前が真っ白になっている。

当たり前のことだろう。死を覚悟していたところを突然押され、自分だけ助かって、一方はコンクリートに埋まっているのだから。



「スターシップやめろ!!!落ち着け」

「止めないでマルフォイ!!ランドールが…!私のせいで!!」



ドラコがオルガの肩を掴むとオルガは暴れた。操られていた時の記憶があるのだ。死喰い人はとんでもない記憶をオルガに植え付けてしまった。これまで仲の良かった友人同士で殺し合いをさせようとしたのだ。やはりあの場で殺しておけば良かったとドラコは思った。



「とにかく落ち着け!杖を使ってみんなで退かそう!!レディー!!お前も正気に戻れ!!」

「…ランドール…」

「レディー!!!!」



ドラコはレディーの頬を掴み、目を合わせた。レディーの瞳には涙が溜まっている。



「お前がしっかりしなきゃどうするんだ!みんなと生きるんだろ!?まだわかりもしないのにランドールを勝手に殺すな!!未来をみんなと生きるんだろ!?」



ドラコの言葉にレディーは冷静さを取り戻した。頭が冴えてくる感覚と、今何をしなければいけないかが。
レディーは杖を取った。ドラコに目を合わせ、共に呪文を唱える。


「「ウィンガーディアム・レビオーサ」」


コンクリートが浮遊する。オルガはその様子を見て血が滲む手で杖を取った。彼女もまた冷静さを取り戻したのだ。

一つ、また一つと、天井であったはずの硬いコンクリートが無くなっていく。

そして大きなコンクリートをどかすと、ランドールの髪の毛が見えのだ。ランドールの名を呼んだのはレディーでもオルガでもなくドラコだった。近くに駆け寄ると「うっ…」と、微かに聞こえる声に希望を抱いた。
ランドールはコンクリートとコンクリートの間にできたわずかな隙間にいたのだ。おそらく直前で杖を振って隙間を作ったのだろう。



「あと少しだランドール頑張れ」


ドラコは数歩下り、また三人で杖を振った。そしてようやくランドールの全身が見えたのだ。



「「「ランドール!!!」」」


三人でランドールへと駆け寄る。だがその姿はあまりに酷かった。
左手と左目が潰されていたのだ。このレベルの怪我では呪文ではどうにもならない。レディーは涙を流しながら「エピスキー(癒えよ)」と呪文を唱えた。傷は塞げても、折れた骨は治らない。
寝そべるランドールにドラコも涙を流していた。



「もういいよレディー……」


ランドールがか細い声でレディーの手を握った。杖を降ろせと言っているのだ。


「嫌よ絶対諦めないから!!」

「ランドール、私がやったことよ本当にごめんなさい…許してなんて言わない…でも絶対に死なないで!!!」

「オルガ…お前のせいじゃないよ、それはわかってる…」

「お前死んだら許さないからな」

「…ドラコ」



俺約束守れただろ?と、血が溢れる口元から、ランドールは微笑みながらそう言った。ドラコは涙をながしランドールの手を取り首を横に振ったのだ。



「約束は守れてる…確かにレディーは生きてる…でも僕はお前に言ったはずだぞ…お前も死んだら許さないって……」

「…レディーが…、生きてればいいんだよ…だって」



約束と、命をかけて守りたかった女の子なんだ。



「どうしてそこまで私を…」



だって俺を救ってくれたのはレディーだから…ー。



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「どこかへ行ってちょうだいナイト!!」

「お母さんでも…」

「お母さんなんて呼ばないで!!あなたを産んだ覚えなんてないのよ!!」



愛人の子を、なぜ私が…。
ランドールの義母は、そう言って幼いランドールを突き飛ばした。ホグワーツに入学することに胸を躍らせていた彼は、ただ入学に必要な物を母親に伝えたかっただけなのだ。


ランドールは妾の子だった。
純血の家に生まれた彼の父親は、不倫相手と子供をつくっていた、それがナイト・ランドールだったのだ。

ランドール家は代々レイブンクロー寮の生徒で、不倫相手の女はスリザリン。そして死喰い人だった。女はヴォルデモートの手先に殺されてしまい、残されたランドールは本家に引き取られ、虐待にも似た扱いの中で育った。


ドッカイケ
キエロ
ウチノコジャナイ


「やめてよ…」


ねぇお母さん僕を見て。どうして愛してくれないの?スリザリンだから?


ねぇ…ー。







「イッチねんせーーい!ホグワーツはこっちだ!!」


ハグリッドが一年生を城まで誘導する。自分の体くらい大きなスーツケースにフクロウ、教科書、結局用意してくれたのは屋敷しもべだった。義母は最後までランドールを見なかった。


「はぁ…」


大きなため息を吐いて駅を1人で歩む。これから自分はどうなってしまうのだろう。もしもレイブンクローに入れればお母さんは認めてくれるかもしれない…。もしスリザリンになってしまったら…。


首をブンブンと横に振った。大丈夫だ。組み分け帽は結局自分の意思を尊重してくれると聞いたことがある。レイブンクローレイブンクロー、そう強く願えば、大丈夫。


胸を自分の手でドンと叩いた。


ダイジョウブ







「うわーデッケーや」


隣にいた赤毛の男の子が城を見て呟いた。この子知ってる。たぶんウィーズリーの家の子だ。ローブもボロボロだし。うん、間違いないね。


案内され、大広間の前の扉に案内される。マクゴナガル先生という魔女が何か説明を始めた。足の間を大きなアマガエルがすり抜けていく。俺はそのカエルによろめき、後ろの子に当たってしまった。



「いた!」

「あ、ごめ…ん…」



衝撃だった。目の前に絶世の美女がいたのだ。俺が当たってしまったのだろう、オデコを抑え膨れた顔をしているが、どう考えても、どう見ても美人だった。

ゆっくり開かれる翡翠色の瞳、吸い込まれそうで驚いた。


「レディー大丈夫?」


レディーの後ろからヒョコッと現れたのは黒髪の女の子だ。一年生の頃のオルガだった。


「うん大丈夫、カエルのせい」

「カエル?」


前を見ればネビルがカエルを掴みに行っていた。あぁアレか。と言いたげにオルガはふーんと呟いた。そしてレディーはランドールを見つめたのだ。


「私たちさっき電車で知り合ったの。あなた名前は?」

「あ、ナイト。ナイト・ランドール」

「変わったファミリーネームね。私はレディー・エジワール」

「私はオルガ・スターシップよ、よろしくね」


三人で握手を交わす。よかった、俺にも友達が出来たじゃないか、それもとびきり美人の。



「それにしても」


レディーが突然眉間にシワを寄せた。腕を組んで斜め前にいるプラチナブロンドの毛を見て睨んでいる。


「なんなのあいつは!さっきから偉っそうに」


のちに彼氏となる人物に向かってレディーは突然毒を吐いたのだ。まぁまぁなんて言いながらオルガが笑う。ランドールはドラコのその見た目からすぐにマルフォイ家の子供だと察した。
スリザリンのことに関しては徹底的に調べたのだ。もし寮に入ったら義母が怖いから。



「彼には関わらない方がいいよ…というか、スリザリンは…ね」



レディーの肩がピクリと揺れた。それと同時に大広間の扉が開いたのだ。マクゴナガルに続いてどんどん生徒は前に進む。


「あ、俺たちも行こ…」

「私はスリザリンよ」

「え、」


ランドールはその言葉に足を止めた。レディーはニヒルに笑い前へと歩んでいく。ランドールも置いていかれまいと急いでついて行った。


「どういう…君はスリザリンでいいの?」

「えぇ、私はスリザリン」

「そうか…俺はお母さんがスリザリンが嫌いで…家族みんなレイブンクローだし、レイブンクローがいいな」

「私の家も同じよ、代々グリフィンドールしか出してないの。お母様にはお前はスリザリンと何度も言われ、それ相応に虐げられてきた」



同じだ。この子は俺と同じじゃないか。でも、だったらなぜスリザリンに…

そう疑問が表情に出ていたのだろうか、レディーはフフフと笑ってこう言った。この時の彼女の顔が今でも頭に残っている。辛いことや、悲しい記憶が蘇ると決まってこの時のレディーを思い出すのだ。



「簡単よ、そんなに言うスリザリンに入って、私は幸せになってやろうって思っただけ。親の目から逃れる7年よこんな幸せないわ。私はここで友達をつくって自立するの。自分の道は自分で選ぶ。親に認めてもらいたい道も当然あると思うわ、でもね」



レディー・エジワール!

マクゴナガルがレディーの名を呼んだ。寮分けがレディーの番なのだ。



「自分の人生だから親を忘れて冒険してもいいと思う」



じゃ、行くね。そう言って組み分け帽を被った彼女は、「スリザリン!」という言葉に微笑み、寮のテーブルへと歩んで行った。その姿が目に焼き付いて、凛とした背筋がたまらなく素敵だった。

横からオルガが俺の肩に手を置いた。彼女に「君はどこに?」と問うと、これまた面白いことを言うのだ。



「私もレイブンクロー希望だったけど、あの子と一緒なら楽しそうだからスリザリン」


オルガはアハハと笑った。
ナイト・ランドールと、俺の名が呼ばれる。オルガはさよならレイブンクローさんと、笑顔で手を振った。


組み分け帽までの道が、まるでスローモーションのようだった。一歩一歩、足を進めるたびに自分の中に決心がついて行く。


イナクナレ
ツラヨゴシ
ハジサラシ


そんな言葉などもうどうでもいい。組み分け帽が「どうするかね?」と尋ねる。俺の心はもう一つだった。寮テーブルを見るとレディーがこっちを向いて微笑んでいた。



「スリザリン!!!」



こうして俺、ナイト・ランドールはスリザリンに入った。

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