アンブリッジは大嫌いだ。それはホグワーツの(フィルチ以外の)みんなが思うこと。もう二度と会うことはないと思っていた。
それがどうだ。相変わらずのピンクさで、いつも通りの巻き毛で香水。あぁもうそれだけで腹がたつというのに、この傲慢そんな表情。一発ぶん殴ってやりたい。
「アルバート降りないの?」
ハリーの顔がこれでもかと言うほどに引きつった。やばいぞハリーがいなくなって女二人でこのピンクガーゴイルから分霊箱を奪うなんて勇者すぎる。
ハリーがゆっくりと降りるとエレベーターの扉が閉まった。ハリーが後ろを振り返る。ハリーの目は死んでた。
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「アシュレイも法廷まででしょ?」
エレベーター内でアンブリッジが問いかけてきた。ハーマイオニーに極力喋るなと言われたので思い切り頷く。
アンブリッジは満足げに「よかった」と言った。
エレベーターがまた止まった。扉が開くとそこにいたのはルーファスだった。ある意味最悪のタイミングだ。
何を隠そうルーファスはアンブリッジが大嫌いだからだ。アンブリッジも当然嫌っている。なぜって?レディーがランペル家の元養子だからだ。
アンブリッジはレディーを恨んでいた。五年生の時辱められたことを一生忘れないと思っている。ルーファスは過ぎた話だと言ってアンブリッジが怒るたびに交わしていたようだが、彼女はそうもいかない。いつまでたっても引きずっているのだ。
「あらルーファス・ランペル。このエレベーターは法廷に直行するので他のを使ってくださる?」
公共の乗り物なのに我が物顔だ。ルーファスの顔が引きつっている。
「それはどうも失礼したね。ドローレス」
「それじゃあね」
「あ!アシュレイ君に話があるんだ!」
ちょっと降りて!といいレディーは腕を引かれた。アンブリッジは気に入ら無さそうにさっさとエレベーターの扉を閉めた。ハーマイオニーが絶望的な顔をしていたのが見える。
ルーファスに腕を掴まれたレディーは何の用だと言いたげに振り払った。
これで全員バラバラなのだ。非常にやばい事態。
「あーごめんアシュレイ仕事中に。…その、前、君に告白しただろ?」
「…は?」
「ほら!この間食事に行った時に…。それで返事を聞いてなかったから」
ルーファスの顔が見れない。ごめんなさい。今あなたの前にいるのは元義妹のレディー。
アシュレイじゃない。
ルーファスが恋してる女性に化けているとは想定外すぎる。本当に悪いことをした気分だ。あぁでもルーファスも顔がいいし、このアシュレイと言う人も綺麗だしお似合いだろうな。
そんなことを考えている暇はないのだがレディーの頭の中はそれでいっぱいだ。ルーファスが返事はまだかとじっとこちらを見ている。言わなくちゃいけない。魔法省にポリジュース薬を使って潜入したことに対してめちゃくちゃ怒られたとしても、言わなくては。
「あのー、実は…」
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「ハァ!?レディー!?」
その場にいた役人がギロッとこちらをにらんだ。ルーファスは手をバタバタと動かしながら「へー!レディーって名前の酒があるのかー!珍しいなぁ!」と大きな声で白々しい嘘をついている。
「ごめん。お叱りは全てが片付いたらよ」
「あぁ3時間ミッチリ叱ってやる」
「法廷へ行きたいの。アンブリッジの元へ」
「冗談じゃない大切な妹をあいつのところへ?」
「今はそんなこと言ってる暇ないのよ!」
ドラコを闇から救いたいの…。レディーがか細く言った台詞をルーファスは聞き逃さなかった。レディーの肩が震えている。アシュレイの体だが、中身は元妹だ。行かせたくないが、こればかりは仕方ない。
「地下10階だ」
「え」
「そこで今日法廷が行われている。マグル生まれの魔法使いカターモール夫人のな」
「あ、ありがとう!」
レディーがエレベーターへと走った。ルーファスは腕を掴み足を止めさせる。
珍しいほどに真剣なルーファスの表情に、背筋が伸びた。
「あそこはディメンターが大量にいる。それにヤックスリーも。絶対死ぬな」
頷いてエレベーターに乗った。大丈夫だ。アンブリッジなど何度も抵抗してきた。大丈夫大丈夫。
「…」
大丈夫、じゃない。あの時はそばに大好きな友達がついてた。それにドラコも。
怖い時は近くにいてくれたし抱きしめてくれてた。でも今は違う。
「…怖い」
左手の指輪を見つめる。ドラコはもっと恐ろしい場所にいる。きっと例のあの人の間近に。
みんなは元気かな。ドラコだけじゃない。オルガも、ランドールも。ホグワーツにいる子達が心配だ。
めげてなんていられない。
左手をギュっと握りしめた。エレベーターが10階を知らせる。開かれた扉へと、一歩足を進めた。
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