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マルフォイに手を引かれようやく階段まできた。止まることなく進んでいく彼にレディーは付いて行く他なかった。

この先にあるのは天文学の授業で使われる塔だけだ。マルフォイは塔のてっぺんに私を連れてきて何をするつもりなんだろうか。と言うよりも、授業以外で天文台に入るのは禁止されているはずだ。


「ねぇ、授業は?」

「今日はない」

「授業以外では立ち入り禁止のはずよ」

「オーロラ・シニストラ教授にはちゃんと言ってある」

「どうしてそこまで…」



心配になって階段を上がるマルフォイを見上げる。彼の背中の奥には無数に光る美しい星があった。

階段を登り終えるとマルフォイを抜き、中央まで躍り出る。



「やっぱりここは夜が一番ね、とっても綺麗」



レディーは天文台の上をぐるぐると回る。両手を広げると今にも星を掴めそうだと感じた。


「これを見せてくれようとしたの?これなら天文学の授業でも見れるんじゃ」



柵に手をかけて夜空を見るマルフォイの隣に行き、不思議そうに尋ねた。



「エジワール、お前今日なんの日か知らないのか?」

「マルフォイの誕生日?」


突拍子も無いことを言うレディーにマルフォイは思わず眉を寄せて「全然違うな」と言って笑った。


「なら知らないわよ」


「そうか」と言ってマルフォイが微笑む。こんなに穏やかな彼今まであったろうか。



「今日は流星群があるんだ」

「流星群が?ほんとに?」

「僕は嘘はつかない」



笑うマルフォイにレディーも笑顔を向けた。気づけばハイヒールが昼にはいていた物よりも高く、身長を伸ばしたので、マルフォイの顔はいつもよりも近かった。恥ずかしさで顔を背けるレディーに、マルフォイはいきなり腕を掴んだ。



「な…ななな…何!?」



赤くなり動揺するレディーをマルフォイは見ていなかった、見ていたのは夜空だった。



「きた…」

「え…?」



何かと思いマルフォイと同じように視線を向けると、空に光る星に心を奪われた 。星が光っては線を引いて落ちていく。光の道が夜空を彩り、まるで宝石箱だった。


「これが流星群だ」

「凄いわ!!初めて見た!」



興奮するレディーは柵から見を乗り出して流星が飛び交う空を見た。

マルフォイはその姿を見て懐かしむように言った。


「僕は小さい頃、両親と一度だけ見たんだ」

「そうなの、この素晴らしい景色を教えてくれたのはマルフォイの両親だったのね」

「エジワールは両親と見なかったのか?」

「ええ、見たことないわ。親に嫌われてて、特に母の方」


レディーはマルフォイに目を合わせずに星を見続けた。レディーの表情は切なげで、今にも星の中に消えてしまいそうで、マルフォイは急に怖くなった。この、目の前にいる女から目を逸らしてしまったら消えてしまうのではないかと。



「親に嫌われる?子供が?」


「マルフォイ、あなたはきっと、ご両親にとても愛されているのね。でも世の中は様々よ、子供を蔑む者もいる。私は、代々グリフィンドールしかいない家で唯一産まれたスリザリンの子で、ちょっと変わってる。両親は“普通”を求めているの」



レディーが無理矢理笑っていることなどマルフォイにはお見通しだった。レディーの気持ちが、胸を締め付けるようにマルフォイに伝わってくる。



「なんでも、私のお偉いご両親は、生まれた時から私がスリザリンに入ることがわかっていたらしいわ。まるで予言者みたいね」



レディーがマルフォイから目を逸らし、星を見て続ける。あぁ本当に星を掴めそうだとレディーは思った。


「捨てられはしなかったけど、愛してはくれなかった」

「すまない…嫌なことを思い出させてしまったな」



マルフォイから謝られたレディーは振り向き、クスクスと笑って見せた。


「何、謝ってるのよ!らしくないわ!それに私こそこんな暗い話をしてごめん」



マルフォイは明るく言うレディーに救われたと思った。彼女を笑顔にさせるつもりが逆に辛い思いをさせてしまったと思い、悔やんで空を見ると、レディーもまた同じように空を見た。


「それにね」

「ん?」

「こんなに綺麗な星空を初めて見たのが両親じゃなくて、マルフォイでホントによかったわ!」


マルフォイは顔を背けた。見ていられなかったからだ。今顔を合わせたら、きっと抑えがきかなくなって、彼女にキスをしてしまうと思った。

マルフォイを見つめたままレディーは言う。


「また誘ってくれる?」

「あぁいいだろう、でも」

「でも…?」


マルフォイがレディーの頭に手をポンとのせた。レディーのブロンドの毛がふわりと揺れる。


「でもエジワール、次からその格好は無しだ。この学校ではあまりにも派手すぎる」


フリントみたいに他の奴に目をつけられたら困るからな、と心の中で呟いた声は当然レディーには届かない。恥ずかしさでそらしていた視線をレディーに向けると、彼女が小刻みに動き始めた。


「…お、おいエジワール?」

「この格好が無し?おしゃれをするなってこと?」

「いや、そういうわけじゃ」

「やめるもんですか!!!もっと素敵な服を買ってそれを着てきてやるわ!!!!」


レディーは怒っていた。と、言うよりも恥ずかしくてたまらなかったのだ。オルガに服を選んでもらったとはいえ、レディーは今夜着ていく服を真面目に悩んでいた。いつもの服じゃダメだった。

今夜だけは特別であったから。

それを真っ向から否定されたようで、自分ばかりが気合いを入れてきた様に感じて、恥ずかしさのあまり声を上げていた。

「この服今日のために選んだのよ」と言えばいいだけなのに、素直になれないレディーはもうヤケクソだったのだ。


マルフォイもマルフォイで、素直にレディーが無防備なことを心配していることを言うことが出来ず、結局二人は10分はいつもの如く言い合いをすることになった。



天文台ではレディーの怒鳴る声が響き、マルフォイの馬鹿にする声もしたが、どれも楽しそうに響き夜空の闇へと消えていった。






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まず言っておくが、僕は流星群などどうでもよかった。

ロマンチストではなかったし、流星群は昔一度見たからいいと思っていたし、星にも興味なく、天文学の授業は成績を取れる範囲でしか学んでいない。


談話室で本を読んでいる時、たまたま近くにいた歳上の女子生徒が「今夜は流星群らしいわ」等と会話をしていなければその事を知りもしなかった。
しかし僕は想像してしまった。満点の星を見て笑顔になるエジワールの事を。きっと今までで一番の笑顔であることを。

気づいた時には同学年の女子生徒に伝言を頼んでいたし、夜が来るのを心待ちにしていたのだ。


恥ずかしながら、また自分だけに向けた笑顔が見たかっただけだ。

だからフリントがエジワールに声を掛けていた時は思い切り言ってやりたかったよ、

“彼女もう予約の時間が迫ってるんだよ”

ってな。



(予約者はもちろん僕さ)
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